モンパルナスの灯(続)

 
 実際には粗暴で傲慢で、典型的な人格破綻者だった(と思う)モディリアーニが、映画では、才能はあるが芸術に対してはいささか愚直な、儚く純な画家として描かれている。だから、どこまでも清純無垢な、美しいジャンヌへの愛を力に、起死回生を願って誠実に生きようとするようになる展開も、さほどメロドラマチックな感傷なしに見ることができる。
 こんな二人であるから、相変わらずの周囲の無理解、モディリアーニの貧困と飲酒という状況も、ただただ悲運で不遇なだけにしか見えなくなる。

 こうしたジャンヌの、良妻かつミューズぶりを際立たせるのが、かつての恋人ベアトリスの存在。
 美術解説でも、女を惹き寄せ夢中にさせたという美貌のモディリアーニの、真剣な恋人だった二人、ベアトリス・ヘイスティングスとジャンヌ・エビュテルヌは、しばしば対照的に評される。従順で情愛深かったジャンヌに対して、ベアトリスのほうは意志が強く、性格もきつくエキセントリックで、モディリアーニとぶつかり合い、暴力を振るい合った、というふうに。
 私は、実際のところ、ジャンヌもまたかなり意志が強く、感情が激しい女性だったと思うのだが、それはともかく、映画ではベアトリスは、さばけた眼で物事を見極め、凛然と、したたかに生きる現代風の女性として描かれ、結構好もしい。

 もう一つ、画商のズボロフスキとモレルも好対照。ズボロフスキは画家モディリアーニに惚れ込み、その絵の価値を信じて、献身的に彼を支える。一方モレルは、同じくモディリアーニの絵を評価しているが、その市場価値の高騰を見込んで、彼が死ぬのを待ち構え、彼の臨終を看取った上で、彼の死を告げることなく、絵が売れて喜ぶ夫の姿を想像して嬉し涙を流すジャンヌの前で、彼の絵を買いあさる。
 おい! 非情な冷血漢め、それでもお前、人間か! ……と観者に思わせる、不敵な悪役モレル。こいつがいるから、この映画、きれいに一つにまとまってるんだろうな。

 画像は、モディリアーニ「ビアトリス・ヘイスティングスの肖像」。
  アメデオ・モディリアーニ(Amedeo Modigliani, 1884-1920, Italian)

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