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魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-

 世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記

パーフェクト・ワールド

2007-08-03 | 一つの愛二つの心
 
 「パーフェクト・ワールド(A Perfect World)」を観た(監督:クリント・イーストウッド、出演:ケビン・コスナー、クリント・イーストウッド、T・J・ロウサー、ローラ・ダーン、他)。
 以前、私が勧めても、「イぃーストウッドぉ?」と、観ようとしなかった相棒、今回、女子学生に勧められて、いそいそと借りてきた。おいおい。

 舞台は、60年代、ケネディ大統領暗殺前夜のテキサス。刑務所に服役中のブッチ・ヘインズは、テリーと共謀して脱獄、逃走中に立ち寄った町で、少年フィリップを人質にする。
 道中ブッチは、フィリップを襲おうとしたテリーを射殺。次第に二人のあいだには信頼が生まれ、フィリップは、家を出た父親の姿をブッチに重ねるようになる。
 一方、厳重な警戒線が張られるなか、ブッチを追跡する州警察署長、レッド・ガーネット。彼は、まだ子供だったブッチを劣悪な環境から救うために、刑務所に送った当人だった。……という話。

 一面の草原、風に紙幣が揺れるなか、眼を閉じて寝そべるブッチ。彼の行く先は、この最初のシーンに描かれている。

 この映画は意図的にロード・ムービーとして作ってあるらしく、追跡の描写は全然きびきびしていない。レッドたちは田舎道をキャンピングカーのような車で、コーヒーを飲んだりバーベキューしたりしながら、ブッチを追う。
 で、ブッチたちの逃避行も、やけにのんびりしていて緊張感がない。ブッチには父との思い出がほとんどなく、フィリップに子供時代の自分を重ねる。同じくフィリップのほうも、家を出た父をブッチのなかに見る。二人は父と子のような不器用な関係になってゆく。
 ブッチが目指すのは、父が絵葉書をくれた新天地アラスカ。
 
 ……ブッチを、暴力を振るう父親から引き離すために刑務所に送り込み、結果、ブッチを犯罪の常習犯としてしまった、という曰くを持つレッドは、実はブッチの父親だったように思えたのだが、英語のニュアンスが分からなかったので、はっきりしない。
 
 が、事情を知らない第三者の眼で傍観すれば、ブッチは子供の頃から犯罪を重ねた挙句に脱獄、誘拐、殺人とエスカレートしていく凶暴な男。ブッチとフィリップとレッドのそれぞれの思いを、第三者であるFBI捜査官が、正義の名のもとに、いっぺんにぶち壊してしまう。

 「今日はツイてない」とつぶやくブッチ。思えば彼の人生は、ずっとツイてなかったんだろう。
 ツイてないときって、滅入るよね。

 画像は、エイキンズ「理想郷の住民」。
  トマス・エイキンズ(Thomas Eakins, 1844-1916, American)

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ロミオとジュリエット

2007-07-28 | 一つの愛二つの心
 
 「ロミオとジュリエット(Romeo and Juliet)」を観た(監督:フランコ・ゼフィレッリ、出演:レナード・ホワイティング、オリヴィア・ハッセー、マイケル・ヨーク、ミロ・オーシャ、他)。

 舞台は14世紀イタリアの都市ヴェローナ。名門モンタギューとキャピュレットの両家は、家長から下男に到るまで仇敵視し合い、ときには血を流し合う仲。
 ある夜、モンタギューの一人息子ロミオは、友人らとともにキャピュレットの夜会に紛れ込み、キャピュレットの一人娘ジュリエットに出会う。たちまち恋に落ちる二人。互いに相手の素性を知っておののくが、結婚を誓い合い、ロレンス神父のもとでひそかに結婚。
 その帰り道、街頭でキャピュレットのティボルトとモンタギューのマキューシオが争っているのに出くわしたロミオは、親友マキューシオが殺されたのに逆上して、ティボルトを殺してしまい、追放の身に。
 一方、両親に結婚を命じられたジュリエットは、ロレンス神父に助けを求める。神父は一計を案じ、ジュリエットに仮死をもたらす毒を与える。納骨堂に葬られた後に眼を醒ますジュリエットを、ロミオが迎えに行く、という算段だったが、ロミオには伝わらず、ジュリエットが本当に死んだと思い込んだロミオは、毒をあおって後を追う。眼を醒ましたジュリエットも、ロミオが死んでいるのを見出し、短剣で後を追う。
 二人の死後、両家は和解する。……という、有名な話。

 言わずと知れたシェイクスピアの高名な悲劇の映画化。原作に忠実らしく、映画と言うより芝居だった。台詞が軽くないの。
 私は戯曲はあまり好きじゃないのだけれど、シェイクスピアくらいはやっぱり読んでおかなきゃ、と思って、学生の頃に一通り読んだ。で、「ロミオとジュリエット」には、「リア王」や「マクベス」のように、一路破滅へと突き進む、ストーリーのアクの強さがなくて、物足りないと感じた記憶がある。

 映画でもやっぱり同じように感じた。直情と浅慮の若い二人。特にロミオ。すれ違って死んでしまう二人の死には正直、なんだか馬鹿みたい、と感じてしまう。でも、ロミオの理性を一番感じたのは、彼の最期のシーンだったんだけど。

 が、古いイタリアらしい街並や衣装、古楽器の音色は綺麗だった。ジュリエットは初々しくて可憐だったし、音楽も、甘く切ないメロディーがいい感じ。この曲、昔、映画音楽鑑賞会で聴いたとき、あー、バイオリンの音色ってこんなに甘いんだな、と思ったっけ。
 で、ジュリエットの可憐さと、音楽の甘さと、映像の美しさで、合格の一本。

 あと、ジュリエットって、日本の布施明と結婚してたってホント?

 画像は、F.ディクシー「ロミオとジュリエット」。
  フランク・ディクシー(Frank Dicksee, 1853-1928, British)

ひまわり

2007-07-10 | 一つの愛二つの心
 
 ちょっと前になるけど、「ひまわり(英題 Sunflower)」を観た(監督:ヴィットリオ・デ・シーカ、出演:ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ、リュドミラ・サベリーエワ、他)。
 高校では映画音楽鑑賞会だったので、ヘンリー・マンシーニの主題曲は知っていたのだが、映画自体は観たことがなかった。で、ひまわりー、ひまわりー、と言ってたら、相棒が借りてきてくれた。傑作の一本。

 戦争に引き裂かれた男女の愛の物語。冒頭、マンシーニのメロディーに乗ってうねり広がる、はるか地平線まで続く一面のひまわり畑は圧巻で、美しく悲しい行く末を予感させもする。
 短い休暇の浜辺で恋に落ち、結婚するアントニオとジョバンナ。互いに離れがたい二人は一計を案じ、狂気に犯されたふりをしてアントニオのアフリカ戦線行きを逃れようとする。が、あっさりバレて、逆にロシア戦線送りに。このあたりまでは、いかにもイタリア人らしい陽気さに、つい笑ってしまう。
 やがて戦争は終わるも、アントニオは帰らない。駅で彼の写真を手に、ロシア帰還兵たちに消息を尋ねるジョバンナは、戦友から、アントニオは敗走途中、力尽きて雪原に倒れたと知らされる。
 諦めきれない彼女は、夫の生存を信じて、彼をロシアまで捜しに行く。とうとう見つけ出した彼は、しかし、自分を救ってくれた若いウクライナ女と結婚し、子供もいた。……という有名すぎる物語。

 こういうリアリズムは凄い。戦争の悲惨さ、取り返しのつかなさをテーマにしているのに、特定の悪(や悪人)ではなく、戦争そのものを悪として描いている。だから後には憎しみや恨みはなく、悲しみだけが残る。
 一面の雪白のロシアの大地に、転々と倒れている、力尽きたイタリア兵たち。今、太陽の下に見渡す限りひまわりの咲く、その同じ大地に、彼ら無数のイタリア兵、ロシア兵が、ともに葬られているという。敵国の兵士を救助、あるいは埋葬した現地の女たちの姿を見ると、戦争には個人間の憎しみなどないことが、強く感じられる。

 あらすじだけを知っていた私は、昔、祖国に待つ女を放って、帰らずに結婚してしまう男だなんて、と思ったこともあった。が、生死をさまよって記憶を失い、しかも当時はスターリン体制、元敵兵としては、生きていくのに他に選択のしようはなかったよね、と今じゃ思う。
 相棒に、もしジョバンナの立場だったらどう思う? と尋ねたら、「まず、アントニオが生きていたことを喜ぶだろうね」という返事だった。で、付け加えて一言。
「チマルさんていつも、自分が同じ立場だったらどうするかを考えるんだねえ」

 ……そうなの。自分だったらどうしよう、と、つい考えちゃうのだ。

 画像は、スタニスワフスキ「ひまわりと小屋」。
  ヤン・スタニスワフスキ(Jan Stanislawski, 1860-1907, Polish)

それでも生きる子供たちへ

2007-07-03 | 一つの愛二つの心
 
 大学病院で結果が出た後、相棒が突然、「必見の映画、観にかんとかん(=観に行かないといけない)」と言ってきた。
「かん(=行かないといけない)?」
「かん、かん(=いけない、いけない)!」
 で、行ってきたのが、「それでも生きる子供たちへ(All the Invisible Children)」(監督:スパイク・リー、カティア・ルンド、エミール・クストリッツァ、ジョン・ウー他)。

 それぞれの国に生まれた7ヶ国(アメリカ、イギリス、イタリア、セルビア・モンテネグロ、ルワンダ、ブラジル、中国)の監督による、7つの短編からなるオムニバス。いずれも完成度が高く、個性的だが、それぞれに一貫する強いメッセージ性が、全体を一つの作品にまとめている。
 内戦や貧困など過酷な状況に置かれた子供たちが、生きるということへの単純な欲求に素直に従い、厳しい現実を不屈に生き抜いていく。そのなかでふと垣間見せる、条件の別なく世界中の子供に共通する、子供本来の天真爛漫な笑顔。
 少年兵、ストリートチルドレン、HIVなど、重く深刻なテーマを扱いながら、説教臭さがなく、瑞々しいのは、どのストーリーも子供の視線で、子供の感受性そのままに描いているからだろう。

 この映画はユニセフや世界食糧計画(WFP)が後援。製作にあたって監督たちは無報酬で演出を引き受け、収益の9割もWFPに寄付されるという。

 映画館の前には行列ができていて、それを見た相棒、
「こりゃ座れないね。ここ、他に観る価値ある映画やってないんだから、行列みんな、この映画を観に来たに決まってるよ」と、がっくり。
 でもまあ、それじゃあ、日本もまだまだ捨てたもんじゃないってことじゃん。良いほうに取ろうよ、次の上映まで待ちゃいいんだから、ね。
 ……が、結局、余裕で座れた。行列どもはみんな、観る価値ない映画のほうへ向かったらしい。がっくり。

 選択肢のない環境に置かれた子供たちが、生きるために戦争し、労働し、窃盗する。そんなのはひどい、と、選択肢を持つ大人たちが感想を洩らす。
 けれども、恵まれた環境のなかで、真の自由意志によって、自らの日々の行動を選択している大人たちが、一体どれほどいるのだろう。働く経済的必要がないのに働いたり、時間があるのに時間潰しにTVを見たりするのは、よくないことのように思う。

 映画の最後に、サン=テグジュペリ「星の王子様」の、こんな言葉が出てきた。
「大人は誰も、昔は子供だった。だが、そのことを忘れずにいる大人はほどんどいない」
 ……そう言えば私は、自分がいつ大人になったか、感じたことはまだないな。

 画像は、フレーデンブルフ「子供たちの遊ぶ市景、ハーレム」。
  コルネリス・フレーデンブルフ(Cornelis Vreedenburgh, 1880-1946, Dutch)

ブラッド・ダイヤモンド

2007-05-18 | 一つの愛二つの心
 
 連休前、フォスター・プラン推薦の映画ということで、「ブラッド・ダイヤモンド(Blood Diamond)」を観に行った(監督:エドワード・ズウィック、出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー、他)。

 つい10年ほど前の、内戦最中の西アフリカ、シエラレオネが舞台。
 ある日突然来襲した反政府軍RUFによって家族と引き裂かれ、ダイヤモンド採掘労働へと借り出される、村の漁師ソロモン。そこで彼は、どでかいピンク・ダイヤモンドを見つけて隠すのだが、それを元傭兵のダイヤ密売人ダニーが嗅ぎつける。ダニーはソロモンに、家族を捜し出してやる代わりにダイヤの隠し場所を教えるよう迫る。
 一方で、ダニーはダイヤ密輸の実態を追う女性ジャーナリスト、マディーにも、密輸の情報と引き換えに自分たちへの協力を取りつける。
 彼らは、それぞれの思惑によって一致した利害、ピンク・ダイヤモンドへの道を共に行く。……という話。

 筋から言えば娯楽映画なのだろうが、シエラレオネの武力紛争やダイヤの不法取引など、社会背景をしっかり描いたストーリーなので、重いのなんの。
 人民解放を謳う反政府組織が、人民を虐殺したり、手足を切り落とすなどの残虐行為に及んだり、人民を拉致して強制労働させたり、麻薬や洗脳によって少年兵に仕立て上げたりしていた、という事実。その反政府組織が、高値に維持されたダイヤモンドを資金源として、その密売によって武器を購入してきた、という事実。ちょっと考えれば見当のつく内容なのだが、映像つきの具体的なストーリーで提示されると、やっぱりショッキング。つらすぎる。
 アフリカにはまだ20万人の少年兵がいるという。何とかしなくちゃならない。

 この映画では取り上げられなかったが、ダイヤモンド需要国が武器供給国である場合も多いことを、忘れてはならないと思う。

 あと、人を殺すのにも逡巡しない非情な男ダニーの心の動き。
 もともと実力派だったのに、「タイタニック」で一躍ミーハー俳優とされてしまったディカプリオが、本領を発揮して、百戦錬磨のワイルドな悪人を、だが、「悪人にも善い心が残っている」という思想のとおり、アフリカへの愛着、親を奪われた孤独などを垣間見せる、悪人になり切れない悪人を、演じ切っている。
 “TIA(This is Africa)”という現実。単なるレオさま目当てでも、観ておいたほうがいい。

 私は金・銀・宝石に興味がなくてよかった。相棒も「買ってあげないでいてよかった」って言ってた。もともと買う気なかったくせに。

 画像は、エイキンズ「踊る黒人少年」。
  トマス・エイキンズ(Thomas Eakins, 1844-1916, American)