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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「フィガロ・ストーリー」

2007-10-04 06:43:12 | 映画の感想(は行)
 91年作品。90年代前半は日本映画界が絶不調に陥った時期である。人材がいなかったことに加え、おかしな企画が罷り通るような風潮もあった。本作もその典型・・・・とはいっても純粋な邦画ではなく、外国人監督2人を加えたパリ、東京、ニューヨークを舞台とした3話オムニバスのラブ・ストーリーである。

 まず第一話「ライブラリー・ラブ」。監督はアレハンドロ・アグレスティ。舞台はパリで、図書館でいつも一緒になる女に恋をする若い作家の物語だ。よくあるボーイ・ミーツ・ガールものといえるが、この二人はお互い相手を理想のタイプと思い込むことによって自分たちの行き詰まった現状をなんとか打破しようとしているところが、ちょっとひねった部分であろう。しかし、どうにもエキセントリックで偏執的なこの二人の描写は、観る者の感情移入を拒絶する。気取った映像もシラけるばかりで、インテリ監督の自己満足的作品の域を出ない。

 第二話「月の人」。監督は「二十世紀少年読本」「ジパング」などの林海象。舞台は東京で、少女と月世界から来た男との出会いを描いている・・・・ようなのだが、これがまたハッキリ言って最低! うわべだけキレイな映像をごたいそうな音楽に乗せて何の考えもなく垂れ流した駄作で、ここには映画的興奮のかけらさえ見つからない。林監督はデビュー作「夢みるように眠りたい」(85年)でその才能に目を見張ったが、その後の仕事を見ると、結局第一作だけの監督だったかという感が強く、この映画で完全にミソをつけたと言ってもいい。

 第三話「キープ・イット・ユアセルフ」。監督は「ショコラ」などで知られるフランスの女流クレール・ドニ。舞台はニューヨークで、アメリカに住んでいる恋人に会いに来たフランスの女の子が、ひょんなことから別の素敵な恋を見つけるというストーリー。画質の荒いモノクロの画面、アメリカにやってきた異邦人という主人公の設定、淡々とした展開などはジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と似た点が多い。しかし、クールでストイックなジャームッシュ作品と違い、この映画はしゃれたラブ・ストーリーとしての楽しさをしっかりと確保しているところが好ましい。エスプリの効いた小粋な佳品といった感じで、3つの作品の中では最も楽しめた。

 結局1勝2敗で、このオムバスは不発に終わったようだ。この映画のタイトルの意味が観る前は全然わからなかったが、観終わってやっとわかった。製作に日産自動車が参加しており、これは日産が発売していた小型車「フィガロ」のPR映画なのだ。3つのエピソードすべてにフィガロが出てきたのには笑ってしまった。それにしてもパリやニューヨークを舞台にしているにもかかわらずフィガロはすべて右ハンドルというのが、どうにも不自然。左ハンドル仕様はなかったのだろうか。
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「サッド ヴァケイション」

2007-10-03 06:43:59 | 映画の感想(さ行)

 青山真治監督の最良作は「Helpless」である。彼のデビューとなったこの作品を、新宿の映画館のレイトショーで観たときの衝撃は大きかった。ヒリヒリとした暴力性と圧倒的なラスト。濃密で切迫した人間関係の描出は、単なるサスペンスドラマの枠を超越した一種“神話の世界”のような高揚を見せていた。

 本作は「Helpless」の後日談であるが、その続編めいた作品のコンセプトそのものが、本編に及ぶべくもない・・・・といった結論に収斂してしまいそうで、観る前は何やらイヤな予感はしたのだが、事実その通りになっていたのだから世話はない(暗然)。

 世の中からあぶれた者達の面倒を見ている北九州市にある間宮運送という駆け込み寺的な会社が主な舞台となるが、前作「Helpless」での主要キャラクターである健次(浅野忠信)をはじめ濃いキャスト達が扮する濃い面々を集めたわりには(集めたからこそ・・・・とも言えるが)、物語の焦点が定まらず散漫な印象を受ける。

 ここで作者がストーリーの“核”としたいのは、健次が幼い頃家を出て行き、今は間宮(中村嘉葎雄)の妻に収まっている母親の千代子であるらしい。過去をまったく振り返らず、完全に“現時点”しか眼中にない彼女の特異な造型を通して、女の持つふてぶてしさをヴィヴィッドに浮き彫りにしようとした意図は、作者のキャラクターの練り上げ不足、およびクセ者揃いの周りの面子により、演じる石田えりの存在感をもってしても、まるで成功していない。もっと登場人物とエピソードを整理して集中的に描くべきではなかったか。

 「EUREKA」のバスジャック事件の被害に遭った梢(宮崎あおい)が出てくるのも取って付けたようだし、そもそも映画の冒頭で健次が助けた中国人孤児アチュンの存在が中盤で尻切れトンボになるのは愉快になれない。かと思えば「Helpless」での狂的なヤクザを演じた光石研が全然違う役で出てきて、斉藤陽一郎と北九弁での“漫才”を延々とやったりするし(まあ、面白かったけどさ ^^;)、八方美人の筋書きだが肝心のプロットは描けていないという、どうもパッとしない出来に終わっているようだ。

 途中に浅野とオダギリジョーとのやり取りがあるが、近年はかつての浅野の役柄を引き継いだ感のあるオダジョーにしても、二人並ぶとやっぱり浅野の貫禄に分がある。ただし、それだけ彼が石田えりの息子という設定は無理があったのも確かであるが・・・・(^^;)。
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「シティ・オブ・ゴッド」

2007-10-02 06:45:49 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Cidade de Deus)2003年作品。カンヌや東京などの国際映画祭で絶賛されたブラジル映画。60年代~70年代の、暴力や麻薬が日常化するリオデジャネイロ郊外の貧民街を舞台にした、弱肉強食の現実を生きる少年たちの群像劇。

 これはズバリ“「仁義なき戦い」のお子様版”である。もちろん“お子様版”というのは“作りがチャチ”ということではない。“「仁義なき戦い」のヤクザの抗争劇を子供達がやっている”という意味だ。しかも実話。年端もいかない子供達が高笑いしながらケンカ相手を惨殺していくシーンの連続は、少年犯罪さえも罰せられない平和ボケの日本人からすれば“信じられない世界”であろう。

 しかも、この映画はそういう実態を告発しているだけのメッセージ・ムービーではない。観ていて実に面白いのだ。映像ギミックを駆使したフェルナンド・メイレレスの演出はスタイリッシュ。ラテン民族らしいノリの良さとリズム感で、陰惨な話を“明るく”まとめている。始めと終わりで時制を一回りさせる方法も玄妙だ。そして一番の功績は各キャラクターが立っていること。子供の頃からヤクと殺しに明け暮れ、大物としてのし上がっていく街のボスと、彼の幼なじみでカメラマン志望の青年との生き方の対比がドラマに抜群のコントラストを付けている。他にもワルに成りきれないボスの片腕や、善良であったが家族を殺されたため悪の道にはまりこむ男の話など、人間観察の鋭さが光るエピソードが満載。2時間を超える上映時間もまったく長さを感じさせない。

 それにしても、これは30年前の話であるから、現在の状況はもっとひどいのだろう。何かの本に“南米は、ある意味「この世の地獄」だ”と書かれていたが、それも頷ける。
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「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」

2007-10-01 06:45:17 | 映画の感想(さ行)

 こういうネタを扱うにしては、上映時間が長すぎるのではないか。舞台は壇ノ浦の戦いから数百年経った日本のどこかの村で、そこでは源氏派と平家派が村の財宝を巡って対立しており、そこにさすらいのガンマンがやってきてどうのこうのといったセルジオ・レオーネの「荒野の用心棒」のパクリみたいな設定はもとより、出てくる連中がもろ西部劇のカッコで、セリフも全編英語という胡散臭さ。かようなキッチュさを売り物にした映画は、ボロの出ないうちにサッと切り上げるのが肝要だが、作者(三池崇史監督・脚本)はそのへんが分かっていない。

 マカロニ・ウエスタンにオマージュを捧げるのは一向にかまわないし、楽屋落ちか新劇調か何かの面白くもないギャグを入れるのも、まあ御愛敬だ。しかし、中盤のまだるっこしい展開はいったい何だ。二つの派閥それぞれの親分格の自己陶酔的なパフォーマンスなど切って良し。源氏の大将の情婦にまつわる因縁話なんぞまったく面白くなくてアクビが出た。

 しかも、ダラダラしている割には大切なプロットが全然描けていない。終盤に財宝の在処の“真相”みたいなものが示されるのだが、最初から財宝を(小出しにでも)有効利用していれば村が荒れ果てることもなかったはずだ。酒場のオバサンの“正体”も“なんじゃこりゃ”である。それならそうで彼女が最初から手を打っておけばここまで問題は大きくならなかったではないか。

 見た目がメチャクチャだから脚本もメチャクチャで良い・・・・とでも思っているのだろうか。ケレン味たっぷりのエクステリアだからこそ、大まかな筋は通すべきだし、その上でこそ破天荒なアクションは盛り上がるのだ。クエンティン・タランティーノもゲスト出演しているが、タラン氏だったら冗長な部分はカットし、ストーリーを煮詰めてあと30分は削るだろう。

 活劇部分は頑張ってはいるが、ラストの“刀vsピストル”の立ち回りを除いて特筆すべき物はなし。伊藤英明や伊勢谷友介、佐藤浩市などの濃いキャスティングも、よく考えてみたら別に彼らでなくてもこなせそうだ。ヒロイン役の木村佳乃は論外。良かったのは桃井かおりぐらいだ。印象的だったのは北島三郎によるエンディング・テーマ。往年の“ジャンゴのテーマ”のカバーだが、朗々としてカッコいい。年末の紅白歌合戦でも歌ってほしいものだ(^^)。
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