元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サッド ヴァケイション」

2007-10-03 06:43:59 | 映画の感想(さ行)

 青山真治監督の最良作は「Helpless」である。彼のデビューとなったこの作品を、新宿の映画館のレイトショーで観たときの衝撃は大きかった。ヒリヒリとした暴力性と圧倒的なラスト。濃密で切迫した人間関係の描出は、単なるサスペンスドラマの枠を超越した一種“神話の世界”のような高揚を見せていた。

 本作は「Helpless」の後日談であるが、その続編めいた作品のコンセプトそのものが、本編に及ぶべくもない・・・・といった結論に収斂してしまいそうで、観る前は何やらイヤな予感はしたのだが、事実その通りになっていたのだから世話はない(暗然)。

 世の中からあぶれた者達の面倒を見ている北九州市にある間宮運送という駆け込み寺的な会社が主な舞台となるが、前作「Helpless」での主要キャラクターである健次(浅野忠信)をはじめ濃いキャスト達が扮する濃い面々を集めたわりには(集めたからこそ・・・・とも言えるが)、物語の焦点が定まらず散漫な印象を受ける。

 ここで作者がストーリーの“核”としたいのは、健次が幼い頃家を出て行き、今は間宮(中村嘉葎雄)の妻に収まっている母親の千代子であるらしい。過去をまったく振り返らず、完全に“現時点”しか眼中にない彼女の特異な造型を通して、女の持つふてぶてしさをヴィヴィッドに浮き彫りにしようとした意図は、作者のキャラクターの練り上げ不足、およびクセ者揃いの周りの面子により、演じる石田えりの存在感をもってしても、まるで成功していない。もっと登場人物とエピソードを整理して集中的に描くべきではなかったか。

 「EUREKA」のバスジャック事件の被害に遭った梢(宮崎あおい)が出てくるのも取って付けたようだし、そもそも映画の冒頭で健次が助けた中国人孤児アチュンの存在が中盤で尻切れトンボになるのは愉快になれない。かと思えば「Helpless」での狂的なヤクザを演じた光石研が全然違う役で出てきて、斉藤陽一郎と北九弁での“漫才”を延々とやったりするし(まあ、面白かったけどさ ^^;)、八方美人の筋書きだが肝心のプロットは描けていないという、どうもパッとしない出来に終わっているようだ。

 途中に浅野とオダギリジョーとのやり取りがあるが、近年はかつての浅野の役柄を引き継いだ感のあるオダジョーにしても、二人並ぶとやっぱり浅野の貫禄に分がある。ただし、それだけ彼が石田えりの息子という設定は無理があったのも確かであるが・・・・(^^;)。
コメント
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