元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エディット・ピアフ 愛の讃歌」

2007-10-13 06:55:58 | 映画の感想(あ行)

 (原題:LA VIE EN ROSE)何とも釈然としない映画だ。往年の大歌手エディット・ピアフの短い生涯を綴った本作、前に感想を書いた「ミス・ポター」のヒロインとは大違いで、彼女の人生は波瀾万丈そのものだ。とても“淡々と描く”ことなど出来ない相談である。逆に言えば、あまりにも波瀾万丈すぎて、一本の映画ではとても全部カバーできない。

 ではこの映画の作り手達はどういうアプローチをしたかというと、主人公にとって大きな出来事だと思われるパートだけをピックアップして描くことに専念した。ただしそれでは単なる“大河ドラマのダイジェスト版”にしかならない。ならばということで、時系列をバラバラにする作戦に出た。この手法で行けば映画で紹介していない時期の顛末を観客の想像にゆだねることが出来て、それだけドラマに厚みが出るだろう・・・・という思惑は、残念ながら見事に外れている。

 ピアフの人生に“観客の想像にゆだねる”といったヤワな部分などは、おそらくはなかったのだ。そのことを代表するのが彼女と恋人のマルセル・セルダンとのエピソードである。別れのシーンにおける映画的仕掛けには唸ったが、肝心の二人の出会いがまるで描かれておらず、時制のスッ飛ばしによる大幅な割愛が成されている。これでは片手落ちではないか(私なんて、最初マルセルが出てくる時に“誰だコイツ? なんでボクサー?”と思ったぐらいだ)。

 さらにはイヴ・モンタンやシャルル・アズナブールとの関係性も全面カット。申し訳程度に顔を出すのがマレーネ・ディートリッヒだけとは、盛り上がりようがない。主演のマリオン・コティヤールのパフォーマンスには圧倒されたが、皮肉にもカメラが彼女を追い回すたびに、他のキャラクターの比重は小さくなるとも言える。だから、ますます物語の外堀を埋めるべき脇のキャラクターの影が薄くなり、そのためエピソードが掴みづらく、映画としてはまるで要領を得ない。

 ヒロインの生き様をそのまま追おうとすれば上映時間が何時間あっても足りはしない。ここは少女期や晩年などの特定の時期を集中的に描くとか、あるいは特定の登場人物との関係を掘り下げて展開させるとか、とにかく“割り切り”が必要だったのではないか。

 監督(および脚本)のオリヴィエ・ダアンは今まで大した実績も上げていない若手だということだが、気負いだけが空回りしている印象がある。もっと手練れのスタッフを起用すべきではなかったか。オリジナル録音をリマスタリングした楽曲は素晴らしいが、邦題にもなっている彼女の代表作「愛の讃歌」がほんの少ししか流れないのは寂しい限りである。
コメント
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