元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

幸田露伴「五重塔」

2007-10-25 06:49:58 | 読書感想文
 恥ずかしながら、露伴の小説を読むのはこれが初めてだ。江戸を舞台に、腕はあるが世渡り下手の十兵衛と、信望も厚い大工の棟梁源太との確執を描く。

 源太は実に好ましいキャラクターに描かれているが、物語の焦点は十兵衛の方だ。気難しく半ば世間に背を向けてしまった彼が、五重塔建設の報を知った途端に形振り構わぬ受注活動に奔走する。十兵衛の五重塔に対する思い入れ等は一切紹介されず、ただ狂気に満ちた彼の行動を追うのみ。それが逆にエゴイズムを超えた人間の「業」を活写して圧巻だ。

 文語体の文章は取っつきにくい感があるが、読み始めるとその独特のリズムにハマってしまう。特に嵐の場面の描写は露伴の文章力が存分に発揮された箇所で、まさに震えがくるほどの素晴らしさだ。終盤は一応ハッピーエンド的な体裁を取っているが、物語の真の「結末」は「その後」であることは言うまでもない。そしてそれは読者の側に委ねられている。なお、五所平之助監督により映画化されているが(1944年)、私は未見。一度観てみたい。
コメント
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