元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「コンペティション」

2015-12-25 06:28:21 | 映画の感想(か行)
 (原題:Competition )80年作品。ドラマとしては物足りないが、全編を覆う音楽の高揚感に心が躍る。観終わっての満足度は決して低くはない。

 30歳のポールは、サンフランシスコで開かれる最も権威あるヒルマン・ピアノ・コンペティションに臨んでいた。このコンクールの参加資格は30歳までであり、彼にとっては最後のチャンス。これに失敗すると、コンサート・ピアニストの道を断念し、音楽教師にでもなるしかない。予選を経た6人のファイナリストに彼もエントリーすることが出来たが、その中に過去に何度かコンクールで顔を合わせていた若い娘ハイディがいた。



 彼女はポールを憎からず思っているものの、ピアノ教師からは恋愛禁止を言い渡されていた。決勝進出者はそれぞれの屈託を抱えながらも、最終日に挑む。ポールの父親は息子に夢を託してきたが、病弱でもうあまり長くは働けない。しかも、決勝日と音楽教師の面接の日が重なってしまうという不運に見舞われる。

 ソ連から来た出場者の教師が亡命騒ぎを起こしたり、このコンテストを芸能タレントとして売り出す切っ掛けにしたいと思う者がいたりと、それぞれのキャラクターの境遇は賑やかだ。しかし、監督(ジョエル・オリアンスキー)のキャリアが浅いせいか、どこかワザとらしいのである。

 特に主演二人以外のキャスティングが弱いため、俳優の存在感で全てを語らせるという手段を採用出来なかったのは痛い。ポールとハイディのアヴァンチュールも適当にロマンティックで、また適当に打算的で、あまり観る者に迫ってくるところが無い。

 だが、いざ彼らがピアノの前に座って妙技を披露すると、画面全体が弾けるような輝きを見せるのだ。この映画では演奏場面に吹き替えは一切使われていない。それぞれが“弾いているような演技”を違和感なく見せきっている。リチャード・ドレイファス扮するポールはベートーヴェンの「皇帝」を見事に弾きこなしているが、それより凄いのがエイミー・アーヴィング演じるハイディの演奏だ。出し物はプロコフィエフの3番で、この難曲を圧倒的なパフォーマンスで見せきっている。アーヴィングとしてもキャリアを代表する仕事になったはずだ。

 ウィリアム・サックハイムのカメラによる深みのある映像も相まって、(やや腑抜けたラストの処理も無視出来るほどに)まるでコンサートに足を運んだかのような気分になること請け合いである。

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