元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「007/スペクター」

2015-12-26 06:22:37 | 映画の感想(英数)

 (原題:Spectre )居心地の悪い映画だ。作品のコンセプトが間違っている。前作「スカイフォール」の出来が良かっただけに、質的な凋落は残念だ。おそらくは次回から装いを一新しての“仕切り直し”になるとは思うが、その際にはシッカリとやってほしい。

 「スカイフォール」で焼け残った写真を受け取ったボンドは、今は亡き前任の“M”からの依頼もあり、単身メキシコに乗り込む。そこで悪名高い犯罪者と渡り合う過程で、それまでの敵たちの背後に潜む悪の組織の存在を知ることになる。一方、英国情報部では新任のチーフ“C”による構造改革が進行し、ワールドワイドな情報システムの導入によって、ボンドたちの所属する部署はリストラの危機にさらされる。

 タイトルにもある“スペクター”とは、シリーズ初期作品にも登場した絶対的な悪の結社だが、実際にあくどいことをやっている大掛かりな組織が世界のあちこちに存在している今、果たして復活させる必要があったのか疑問だ。舞台を50年代や60年代に設定するならば話は別だが、現時点で取り上げるべき素材とは思えない。

 さらに、過去の作品群からのあからさまな引用や、作劇面で不自然な点が目立つ。まあ、これがかつてのロジャー・ムーアやピアース・ブロスナンが主演していたならば“笑って許せる”展開にもなったところだが、無愛想でゴツゴツとした印象のダニエル・クレイグでは全然サマにならないのだ。ここは「スカイフォール」よりもストイック路線を突き詰めて、ハードなスパイ映画としての存在感を示すべきだった。

 監督はサム・メンデスが連投しているが、前回に比べて精彩を欠く。冒頭のメキシコシティでの追っかけこそ迫力があるが、あとはどうにも気合いが入らない。ローマでのカーチェイスや、オーストリアでの雪山での活劇などは、観ていて途中でアクビが出るほどの芸の無さだ。また、ちょっとした爆薬で大々的に壊滅してしまう敵基地や、拳銃で簡単に撃ち落とされてしまうヘリコプターなど、段取りが全然上手くいっていない。

 敵の首魁ブロフェルドを演じるクリストフ・ヴァルツは貫禄不足。単なるインテリ崩れの“父ちゃん坊や”にしか見えず、かつてのドナルド・プレザンスやテリー・サバラスの足元にも及ばない。50歳過ぎたモニカ・ベルッチがボンド・ガールを担当するということで話題を集めたが、彼女の出番はわずかしか無い。代わりに多くの時間をボンドと共にするマドレーヌに扮するのはレア・セドゥーだが、私はこの女優が前から嫌いである。色気も愛嬌も希薄で、大して美人でもない。まあ、祖父が仏映画界の大物なので、そのコネで映画に出してもらっているだけだろう。

 シリーズ最長の上映時間であるにもかかわらず、この中身の薄さ。文字通り“これで終わり”といった感じのラストを迎えて、何だか虚しい気分になってきた。

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