元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「かくしごと」

2024-07-06 06:22:37 | 映画の感想(か行)
 あまり上等とは言えないストーリーを、必死で適宜取り繕っていくような脚本の運びには観ていて愉快になれない。北國浩二の小説「嘘」(私は未読)を元にしているが、たとえ原作の筋書きが万全ではなくても、映画化に際しては整合性を持たせたシナリオを用意すべきである。各キャストはかなり頑張っているだけに、もっと作品の練り上げが必要だった。

 絵本作家の里谷千紗子は、長らく絶縁状態となっていた父の孝蔵が認知症を患ったため、東京から故郷の長野県の山村に戻って介護することにする。久しぶりに会う父は、もはや娘の顔も判別できないほど病状が進んでおり、千紗子はウンザリしながらも世話に明け暮れる日々だ。ある夜、彼女は交通事故で記憶を失った少年を助ける。その少年の身体に虐待の痕跡を見つけた千紗子は、思わず自分のことを母だと彼に告げてしまう。こうして孝蔵と3人で山奥の一軒家で暮らし始める千紗子だったが、当地では少年の捜索願が両親から出されていた。



 くだんの交通事故を起こした車は、千紗子の友人で役場の職員である久江が運転していた。その夜は2人で居酒屋で飲んでいて、帰宅しようとする時刻に運転代行が来なかったため、久江がハンドルを握ったのだ。公務員である久江が飲酒運転するのはアウトだが、少年を千紗子が引き取ったのも単なる隠蔽工作ではないか。

 そもそも、少年がそんなに都合良く記憶喪失になるものだろうか。千紗子には幼くして亡くした息子がいたというのは取って付けたようなモチーフだし、少年がすぐに孝蔵と仲良くなるのも予定調和に過ぎる。極めつけは千紗子が身分を偽って少年の両親に会いに行くエピソードで、ああいう見え透いた素振りでは疑われるのは当然だ。しかも、これには脱力してしまような“後日談”までくっ付いており、この下手な展開にはプロデューサーは“待った”をかけるべきだったと思う。

 高齢者介護の厳しい実態も描出されず、リアリティ不足。第一これは自宅介護よりも施設への入所の方が優先事項だ。何よりこの映画は千紗子を主人公にするのではなく、最初から少年の側から話を進めるべきだったと思う。関根光才の演出は前作「生きてるだけで、愛。」(2018年)に比べて精彩を欠き、素材に対する及び腰なアプローチは気になる。

 それでも主演の杏をはじめ、佐津川愛美に酒向芳、和田聰宏、河井青葉、安藤政信、木竜麻生、そして孝蔵に扮する奥田瑛二と、俳優陣は皆好演。上野千蔵のカメラによる映像と、Aska Matsumiyaの音楽、羊文学の主題歌も悪くない。それだけに脚本の不備が残念だ。

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