元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「碁盤斬り」

2024-06-15 06:25:27 | 映画の感想(か行)
 本格時代劇らしい雰囲気は良く出ていた。各キャストのパフォーマンスも申し分ない。しかし、脚本の練り上げが足りない。加えて、この監督の持ち味が十分に発揮されたとも思えない。全体的に、TVシリーズの総集編のような印象を受ける。ただ客の入りは悪くないようで、多くの観客が日本映画に対して抱く期待感は“この程度”でクリアされるのだろう。

 江戸の貧乏長屋で娘のお絹と暮らす浪人の柳田格之進は、実は以前は近江彦根藩の藩士だった。それが身に覚えのない罪を着せられて妻も失い、江戸まで落ち延びてきたのだ。彼は囲碁の達人でもあり、豪商の萬屋源兵衛とは囲碁仲間である。そんなある日、旧知の藩士から冤罪事件の真相を知らされた格之進は復讐を決意し、真犯人を捜すための旅に出る。一方、源兵衛の屋敷から大金が紛失する事件が発生。格之進が疑われることになり、お絹はその金を立て替えるために、自らが犠牲になる道を選ぶ。古典落語の演目「柳田格之進」を基にしたドラマだ。



 温厚で堅実な性格の格之進が、彦根での出来事の顛末を知るに及び、たちまち鬼神の如き様相に変わるあたりは上手いと思う。殺陣の場面は尺は短いものの、けっこう切れ味がある。しかし、どうも筋書きが弱体気味だ。そもそも、商人として抜け目のない源兵衛が、簡単に大金の在処を失念するわけがない。お絹に大金を用立てる女郎屋の主人のお庚も、随分と甘ちゃんな造型だ。さらに言えば、彦根での一件の全貌が明確に説明されていないし、格之進の妻が世を去った背景も曖昧だ。

 監督は白石和彌なので、もっと直裁的でエゲツない描写を繰り出してもおかしくないのだが、どうも及び腰だ。極めつけはラストの処理で、これでは何がどうなったのかも分からない。この続きを連続TVドラマにでもするつもりだろうか。

 ただし、囲碁が重要なモチーフになっているあたりは評価して良い。プロ棋士が監修を務めているだけあって、対局シーンに違和感は無い。特に堅実な棋風の格之進に対し、俗なスタイル連発の源兵衛、そして敵役の柴田兵庫が繰り出す三連星の布石(当時は見かけなかったであろう、攻撃的な戦法)など、よく考えられている。福本淳のカメラによる陰影の濃い画面造型は見応えがあり、主演の草なぎ剛は好演だ。清原果耶に中川大志、市村正親、奥野瑛太、斎藤工、小泉今日子、國村隼など、面子は揃っている。ただ出来の方が斯くの如しなので、手放しの賞賛とは程遠い。

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