元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「恋の街、テヘラン」

2019-09-20 06:36:15 | 映画の感想(か行)

 (英題:TEHRAN:CITY OF LOVE )アジアフォーカス福岡国際映画祭2019出品作品。ドラマの設定とキャラクターの造型はとても面白い。しかしながら、それらを十分に活かすような筋書きにはなっていない。脚本をもう一捻りして訴求力を発揮して欲しかった。

 元ボディビルのチャンピオンで、今は若手の育成に専念するトレーナーのヴァヒドは、そのインパクトのある外見を武器に映画のオーディションに応募。見事に合格するが、映画はフランス資本で、テヘランでの撮影許可も下りていない。そんな状況で本業を休んで俳優業に専念出来るのか悩む日々だ。

 男性を対象にした美容エステサロンに勤めるミナは、太った冴えない女。気に入った男性客の連絡先を勝手に抜き出し、セクシーな声を使って架空の女に成り済ます。宗教歌手のハッサンはその美声を買われて葬式での歌唱を主な仕事にしているが、雰囲気と外観が“葬式臭く”なってしまい、婚約者にも逃げられる。そこで彼は出会いの機会を増やそうと、ウェディング・シンガーへの転身を試みる。

 生き方がヘタな中年男女の物語だ。3人の置かれた環境の描写は秀逸。ヴァヒドは若い弟子に入れ込むが、期待した結果にはならず、家では老いた父親との要領を得ないやり取りに終始。ミナの言動と外観は明らかに痛々しいのだが、“自分はこんなものじゃない!”と必死で自分に言い聞かせて暴走を続ける様子はスラップスティックな笑いを呼ぶ。

 優柔不断なハッサンのために周りの知り合いや親戚がいろいろとフォローしようとするものの、一度身に付いた“葬式臭さ”は容易に払拭出来ず、ストレスは溜まるばかりだ。3人は互いの面識は無いのだが、それぞれのエピソードが微妙にクロスする。だが、作者はそういう玄妙な“御膳立て”だけで満足しているようなフシがあり、3人の人生が絡み合って新たな局面に突入するとか、そういう思い切ったことをする様子は無い。そこが大いに不満だ。

 アリ・ジャベルアンサリの演出は丁寧で、終盤で大きな縫いぐるみを背負って街を歩くミナの描写に代表されるように、映像面でも健闘している。しかし、ここ一番でのパワーは不足している。主演の3人は好演。特にヴァヒド役のメーディ・サキは、大柄なマッチョ男ながら繊細な表情の演技も出来る。幅広いジャンルに適合しそうだ。

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