元・副会長のCinema Days

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「アルファ 殺しの権利」

2019-09-21 06:38:48 | 映画の感想(あ行)
 (原題:ALPHA,THE RIGHT TO KILL )アジアフォーカス福岡国際映画祭2019出品作品。いわゆる麻薬戦争といえば、まず思い出されるのが60年代のビルマ・ラオス・タイ国境付近、そして80年代以降のコロンビアやメキシコ等だが、フィリピンでも発生していることは、恥ずかしながら本作を観るまで知らなかった。その事実を紹介しているだけでも、この映画の存在価値はある。

 マニラ市警の麻薬取締課で班長を務めるエスピノは、内通者エライジャからの情報を得てSWATと共に取引現場に乗り込む。警官隊は見事にシンジケートの関係者を鎮圧するが、エスピノは密かに現場から麻薬と札束を押収。麻薬はエライジャを通じて売りさばき、代金を自分の懐に入れていた。上司からの覚えもめでたく、表向きは積極的に社会活動もおこなう“人格者”として通っていたエスピノだったが、裏の顔は真っ黒である。彼は次第にエライジャの存在を出世の邪魔だと思うようになり、無謀な行動に打って出る。

 この映画の作りはいささか荒っぽく、活劇場面も気勢が上がらない。ハリウッドで同様のネタを扱えば、もっとスマートにやるだろう。しかし、フィリピンの映画人による当事者意識が横溢した映像に接すると、スクリーンから目が離せなくなってしまう。

 時折挿入されるマニラ中心部の摩天楼と周囲に広がる貧民街とを同一画面で捉えたショットは、この国の問題を直截的に表している。エライジャの住む家は、ゴミ捨て場と変わらない。麻薬組織が牛耳る地域では、地元のカタギの住民もその恩恵にあずかっている。

 エライジャがエスピノと待ち合わせる場所が教会の前で、その教会の中では神父が寛容と博愛を説いているという皮肉。貧民街の描写は徹底してリアルで、そこで展開される、ならず者同士の剣呑なやり取りを手持ちカメラで映し出す。

 ブリランテ・メンドーサの演出はパワフルで、洗練とは無縁とばかりに押しまくる。特に終盤の血も涙も無い展開には、ただ驚くばかり。しかも、この映画の製作に警察当局も協力しているというのだから凄い。主演のアレン・ディゾンとエライジャ・フィラモーの存在感はかなりのもので、他のキャストの仕事ぶりも気合いが入っている。また、上映時間が94分とコンパクトである点も評価したい。

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