元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アルゴ」

2012-11-24 06:30:03 | 映画の感想(あ行)

 (原題:ARGO)実に面白いサスペンス劇だが、拭いきれない違和感があることも事実である。79年11月、イラン革命の最中にイスラム法学校の学生らがアメリカ大使館を占拠。52人が人質となる。その直前に大使館員の6名が脱出し、カナダ大使の自宅に身を寄せる。

 過激派に見つかれば処刑されるのは確実。救出作戦を持ちかけられたCIAの工作員トニー・メンデスは、突飛な手段を考えつく。イランをロケ地に想定した架空のSF映画の製作をデッチ上げ、人質になった6人をロケハンのスタッフと偽り、そのまま出国しようというのだ。

 前述の“違和感”というのは、イラン側の事情がほとんど語られていないことによる。冒頭、イランの近代史が手短に紹介されるのだが、これが単なるエクスキューズとしか思えないほど、イラン人の描き方は一面的だ。

 本作でのイランは“アメリカを脅かす、悪の結社”であり、イラン人は“すべて悪党”であると断定されている。わずかにカナダ大使邸で働くメイドに対してはシンパシーが感じられるが、結局彼女は祖国を捨ててしまうのだ。果ては、カーター大統領主導による強行的な人質奪還軍事作戦が失敗したことも全く描かれない始末。

 何も“現地住民に最大限に配慮すべきだ!”などと青臭いことを述べるつもりはないが、イランの事情をもっと描いた方が物語に重層的な厚みを与えたと思うのだ。それをせずに、当時の米民主党政権が“徹頭徹尾正しい”と言わんばかりの話の進め方は、いくら民主党シンパの多いハリウッドといえども、観ていて釈然としない。

 さて、以上のような欠点を除けばこの映画はかなり出来が良い。事実を元にしていて結末は分かっているものの、丹念なディテールの積み上げによる緊張感の造出は目覚ましい。トニー役で監督も兼ねるベン・アフレックの腕は確かで、堅牢なプロットはビクともしない。

 そしてもちろん、作者がこの題材を取り上げたのは、救出作戦に映画製作を絡めているからだ。メンデスは知り合いのプロデューサーと共同して、ニセモノSF超大作「アルゴ」の製作を実行に移していく。脚本を作成し、製作発表と記者会見を行い、大々的なプロモーションを企画。

 この大芝居を買って出るハリウッドの映画人が“ウソの映画製作だと? まかせてくれ!”と快諾するのには大笑い。演じているのがジョン・グッドマンとアラン・アーキンという海千山千の面子であるのも楽しい。綿密な時代考証も含めて、見応えのある娯楽編だと言えよう。
コメント
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