元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

綾辻行人「Another」

2012-11-03 07:06:19 | 読書感想文
 古澤健監督による映画化作品は評判が悪いようなので観ていない。ならば、2010年版の「このミステリーがすごい!」の国内編で、第3位に入った原作はどうなのだろうと思って読んでみたが、これもあまり褒められた出来ではない。

 98年春、東京から病気療養のため、山あいの地方都市にある夜見山北中学校に転校してきた榊原恒一。だが、新しいクラスである3年3組の雰囲気がどこかおかしい。同級生の女生徒・見崎鳴を、皆“存在していない人間”のごとく無視し続けているのだ。やがて恒一は、このクラスに起こっている戦慄すべき“ある現象”を知ることになる。

 3組のメンバーや担任教師およびその親族がほぼ毎年不慮の事故や急病で相次いで死亡し、しかも、クラス内には過去に死んだ者が誰にも気付かれないうちに紛れ込んでいるという。見崎鳴が無視されていたのは、一人増えた“死者”との帳尻を合わせるための“まじない”らしい。しかし、学級委員の女子が死亡事故に遭ったのをきっかけに、死の連鎖はその年も発生する。



 この設定のおかしな点は、長年にわたって異常なほど数多くの犠牲者が出ているにもかかわらず、当局側が大きく関知している様子が窺えないことだ。教師連中が腰が引けているのならば、市議会や教育委員会などが問題視してもおかしくないのに、本書では事態を懸念する刑事一人を登場させるだけでお茶を濁してしまう。

 そもそも普通に考えれば住民がまず騒ぎ出すだろうし、それを嗅ぎ付けたマスコミが押し寄せてもおかしくない。話を小さな町に“限定”させられるほど、この“現象”は規模が小さなものではないはずだ。

 さらに、この“現象”は26年前に死んだ生徒をめぐる周囲の対応に端を発していることが示されるが、それがどうして死体の山が築かれることになるのか、さっぱり分からない。ここで“ホラーなんだから理屈っぽいことは言うべきではない”という突っ込みが入るのかもしれないが、ホラーやファンタジーのような絵空事だからこそ、筋の通ったプロットの積み上げが必要なのだ。

 だいたい、文中に“理由は分からないけど、ただそうある現象”なんてセリフが何度も出てくるなんて、読者をバカにしているとしか思えないではないか。しかも、一番サスペンスが盛り上がるであろう“紛れ込んだ死者を探す”というモチーフは軽視され、及び腰のまま中盤を過ぎると、何やらハリウッド製三流ホラー映画のようなバタバタした終盤が待ち受けるという脱力ぶり。それまでに明示も暗示もされなかった“小ネタ”が最後の方になって漫然と並べられるに及び、タメ息が出てきた。

 綾辻はミステリー作家として名を成しているらしいが(私は読んだことはない)、どうも“軽量級”のような印象を受ける。あまり作品を追いたいタイプの書き手ではないようだ。
コメント
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