元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「クレイマー、クレイマー」

2012-11-01 06:48:29 | 映画の感想(か行)
 (原題:Kramer vs. Kramer )79年作品。第52回の米アカデミー賞の作品賞をはじめ、当時の主要な映画アワードを総ナメにした話題作である。当然我が国でも評判になったが、どうもそのヒットの要因が、主題とは別なところにあったような気がして、居心地が悪い思いをしたことを覚えている。

 マンハッタンで働く会社員テッド・クレイマーはとても仕事熱心な男だが、家事と育児を妻のジョアンナにすべて全て押しつけていた。彼女が“何か仕事をしたい”と夫に相談を持ちかけても、“仕事に打ち込む甲斐性がある夫でどこが悪い!”と言い張って取り合わない。ある日ジョアンナはテッドに別れを告げる。そして5歳の息子を一人で面倒を見るハメになったテッドの悪戦苦闘が始まるのであった。

 当時この映画に対して“慣れない家事に戸惑う仕事人間のダンナが面白い”とか“ゴタゴタの末に、父子の絆が深まるところが泣かせる”とかいった評が罷り通り、実際にそういう(お涙頂戴の)ヒューマンドラマとして観客に受け入れられた側面があったことは否定できない。



 しかし、大時代な“父子もの”がオスカーを取れるわけがない。本作のハイライトはテッドとジョアンナが親権を法廷で争う後半にある。二人とも息子を愛していて、何とか幸せな結末に持って行きたいと望んでいる。だが、夫婦生活が終わりを迎えた今、息子を手元に置くためには、いかにして“相手が親として相応しくないか”を暴き立てないといけないのだ。

 その頃アメリカ国内において社会問題となっていた離婚・養育権を真正面から描いていることは間違いないが、とにかく、親としての情感を否定するかのようなドラスティックな社会システムへの告発には、鋭いものを感じる。少なくとも、本作を観て親子の情愛にしみじみと浸る余裕は、私には無かった。

 監督のロバート・ベントンはこの映画の他にも「殺意の香り」や「プレイス・イン・ザ・ハート」といった注目作があるが、本作での仕事がベストである。主演のダスティン・ホフマンとメリル・ストリープも素晴らしい演技を見せる。特にストリープに関してはここでのパフォーマンスが一番だったと、今でも思う。

 背景に流れるパーセルやヴィヴァルディのバロック音楽。名カメラマンのネストール・アルメンドロスによる奥行きの深い映像。この時代を代表する秀作である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする