元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「50/50 フィフティ・フィフティ」

2011-12-26 06:33:40 | 映画の感想(英数)

 (原題:50/50 )いわゆる“難病もの”を評価するスキームの中で“重苦しさや過度の愁嘆場を抑えており、明るさも感じられる”といった言い方をする場合があり、実際にそのような映画もいくつか存在するのだが、本当の意味での“明るくて面白おかしい闘病映画”というのは本作が初めてではないだろうか。その点だけでも観る価値はある。

 シアトルのラジオ局に勤めている27歳のアダムは、以前より腰痛と原因不明の寝汗に悩まされていた。医者に行くと、何と背骨にガンが発生していることを告げられる。しかもこのガンは罹患例が少ない特殊なシロモノで、生存率は50%だという。さらにもしも他の箇所に転移していれば10%になってしまう。

 だが同僚で親友のカイルは“50%というのは悪くない。カジノだったら大勝間違いなしだ!”と微妙な言い方で励ましてくれた。さらにカイルはアダムを伴って夜遊びに繰り出し、相方がガン患者であることをダシにして、女の子を引っかけようとする。また、医者に勧められてセラピストの元に足を運ぶと、そこでは自分より若い駆け出しの女性カウンセラーがぎこちなく相手をしてくれるので面食らってしまう。さらに、同じ病院に通うガン患者たちとも仲良くなった。病気になったことで思いがけず人間関係が多彩になるという、なかなか玄妙な立場を描いているのは実に面白い。

 この映画はシナリオを手掛けたウィル・レイサーの経験を元にしているという。劇中で大きいのはカイルの存在だろう。逆境を笑い飛ばし、いい加減のようでいて実は主人公のことを思いやっている。カイルに扮するセス・ローゲンは実際にレイサーの僚友として彼を支えており、このキャラクター設定はなかなか興味深い。

 セラピストに若い女の子を持ってきたのも正解で、ベテランらしい大所高所からのアドバイスはない代わりに、主人公と同じ目線で人生を見つめ直すという“同志”的な連帯感を醸し出しており、観ていて納得出来る。

 また、認知症気味の父と献身的な母のやりとりは、おかしいのだが泣かせる。アダムがいかに親に愛されて育ってきたか、しみじみと伝わってくる。闘病は厳しいが、窮地に追いやられることで見えてくる何かがある。

 主人公の一種の“成長”を綴る青春映画でもある。主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットはナイーヴな草食系に見えるが、なかなか気合いの入った演技を見せる。ヒロイン役のアナ・ケンドリックも小生意気かつキュートな魅力を発揮。母親役のアンジェリカ・ヒューストンの貫禄もさすがだ。ジョナサン・レヴィンの演出は淀みの無いスムーズなもので、余計なケレン味を廃した丁寧な作劇は好感が持てる。興趣の尽きない佳編であり、鑑賞後の印象も良好だ。
コメント
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