元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アントキノイノチ」

2011-12-02 06:30:50 | 映画の感想(あ行)

 瀬々敬久監督の前作「ヘヴンズ ストーリー」とは、ちょうどネガとポジの関係にある作品であると思った。死に向かって全力疾走する登場人物たちの捨て身の自己主張が横溢していた「ヘヴンズ~」に対して、本作のベクトルは生きることに向いている。とはいっても徹頭徹尾ポジティヴな視点が貫かれているわけでもなく、人生を投げてしまいたくなる欲求をかろうじて潜り抜ける主人公達の痛みがヒリヒリと伝わってくるような、強い切迫感が散りばめられている。

 主人公の永島杏平は高校時代に親友の死に直面し、心が壊れてしまった若者だ。それは軽い吃音のせいで他人と十分なコミュニケーションを取れなかったことにも起因している。そんな彼が遺品整理業の会社で働くことになる。そう、クリスティン・ジェフズ監督の「サンシャイン・クリーニング」で取り上げられたような仕事だ。

 そこで彼は久保田ゆきという少女と出会う。彼女は高校生の時にとても辛い体験をしており、学校からも家庭からも爪弾きにされた過去を持つ。彼らが仕事を通して生きる意味を自ら問い質し、再生していくドラマである。

 実を言えば杏平役の岡田将生と、ゆきに扮した榮倉奈々の演技はホメられたものではない。二人とも大根そのものだ。岡田の場合は小綺麗なルックスが苦悩する若者像とマッチしていない。今のところは「告白」や「悪人」で見せたようなトリックスター的な役柄に限定されるようなタイプだろう。榮倉に至っては確かに頑張ってはいるが、演技自体が未熟で、まったく精進が足りない。この程度のパフォーマンスに対して“良い演技だった”と断定してしまう映画ジャーナリズムがあるとしたら、無責任極まりないと言える。

 しかし、本作に限ってはテーマ設定の的確さと卓越した演出力により主演者の力不足がカバーされているのだ。彼らは遺品を不要品の“御不要”と故人の思い出が詰まった“御供養”とに仕訳していくうちに、人間は決して一人では生きられないことを悟る。

 単なる遺品でも、かつては別の誰かに繋がっていたものなのだ。確かに人間は死ぬ時は一人だ。しかし、生きている間に誰かと関係性を持てなかった者などいない。そして、彼ら2人もまた別の誰かに繋がりを持つような生き方をしなければならないのだ。

 説明的セリフが目立つのが気になるが、これはさだまさしによる原作のせいかもしれない。さらに言えば、これも原作に準拠したと思われる終盤の展開は不要だ。2人が海に向かって“元気ですかぁ!”と叫ぶシーンで終わっていた方が数段良かった。とはいえ、全体的には見応えがある良作だと言える。瀬々監督の次回作に期待したい。
コメント
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