元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラビット・ホール」

2011-12-13 06:32:59 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Rabbit Hole )ヒロインの行動に説得力がなく、そのため評価は低いものになる。正直、こんな女が近くにいたら鬱陶しい気分になるだろう。1時間半ほどの上映時間だが、それでも見たくもないものに長く付き合わされた不快感だけは決して小さくはない。とっとと忘れてしまいたい映画だ。

 主人公ベッカの幼い息子は数か月前、彼女の目の前で交通事故により死んでしまった。犬を追って道路に飛び出した息子が、たまたま通りかかった高校生の車にひかれるという不運なアクシデントだった。当然のことながらベッカは落ち込み、立ち直るきっかけさえ掴めない。何をやっても息子のことを思い出し、夫もスマートフォンに残した息子の動画を繰り返し見つめるばかりだ。

 夫婦は子供を亡くした会の集まりにも参加するが、皆自分勝手な悔恨の念を吐露するばかりで、互いの傷をなめ合うような境地にも達しない。事実、参加者の中には随分前に子供が死んだにもかかわらず今頃になって離婚を決意する夫婦だっているほどだ。ハッキリ言って、こんな悲惨な状況では第三者(観客)が口を挟める余地なんか無いのだ。時が解決するのを待つか、また別の生き方をそれぞれが見出すか、どちらかしかない。

 だが、それにしてもベッカの言動はいただけない。スーパーで見知らぬ母親の子育てに口を出した挙げ句に、相手に平手打ちを食らわしたりするのだ。こんなのはいくら子供を亡くしたからといって肯定されるべきものではない。ただの乱暴狼藉だろう。

 さらに驚いたことに、彼女は加害者の男子高校生と仲良くなり、彼の描いたパラレル・ワールドを題材にした漫画(らしきもの)に心惹かれたりするのだ。どこの世界に子供を死に追いやった野郎と懇意になりたがる親がいるのか。百歩譲って、それでもそういうモチーフを挿入したいというのならば、主人公が精神のバランスを無くしていく様子をリアルに描くような、一種のサイコ・サスペンスのようなアプローチをするべきだった。

 しかし本作にはその気配さえ無い。ただ微温的な映像が冗長に流れるだけである。彼女の母親が同じように息子を亡くした事実も紹介されるが、これも取って付けた印象しか受けない。

 原作はピューリッツァー賞を受賞したデイヴィッド・リンゼイ=アベアーによる一幕物の戯曲であり、ひょっとして空間が限定された舞台劇ではエキセントリックな面が強調されて見応えがあるのかもしれない。だが、この平板な映画化ではどこにも深みはない。ジョン・キャメロン・ミッチェルの演出もメリハリに欠ける。主演のニコール・キッドマン、共演のアーロン・エッカート、ダイアン・ウィースト、それぞれの演技は悪くないが、かくも低調な内容ではどうにもならない。
コメント
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