元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「神様のカルテ」

2011-09-08 06:38:03 | 映画の感想(か行)

 まず、主演の櫻井翔がダメだ。何よりあの髪型はみっともない(笑)。もちろん、主人公がいくらカッコ悪くても作劇上の必然性があれば文句は無いのだが、本作では外見上のダサさがキャラクターの魅力のなさを如実に表現しているのだから、始末に負えない。

 主人公の栗原一止は、長野県の地方病院に勤務する内科医だ。救急病院を兼ねる24時間体制ながら、医師の数は少なく運営は過酷である。医科大の主任教授はシビアな状況の中でも的確な処置を続ける栗原の腕を買っており、医局に誘うのだが、地域医療を重視する栗原は気が進まない。

 そんな時、医大病院でガンの宣告を受け余命幾ばくも無い老婦人が栗原のいる病院にやってくる。彼の患者として残りの人生を送りたいのだという。栗原は彼女との付き合いを通じて、自身の医師としての本分を再認識してゆく・・・・というのが粗筋だ。

 この主人公の造型がどうも気に入らない。物腰が丁寧でマジメで人当たりが良いことは分かるが、医者としての矜持が(それっぽいセリフはあるものの)ほとんど感じられないのだ。これは、栗原が“悩みを抱えた普通の人間なのだ”という設定を過度に強調するために、作者が不必要に抑えた演技をさせているためだと思う。

 力のある俳優ならば“引いた”演技をしても存在感が発揮出来るのだが、映画では実績を残していない若手の櫻井にそれを期待するのは間違いだ。結果、ただ地味で人が良いだけの冴えないアンちゃんにしか見えず、映画の主役としての実在感はどうしようもなく小さくなってしまった。

 ストーリー自体はいちいちコメントする気にもならないほど凡庸なもの。医療を取り巻く問題が何の工夫もなく漫然と並べられているだけだ。登場人物の設定や配置も、呆れるほど陳腐。

 加えて、栗原とその妻の住居が古い旅館で、共同生活者に“学生”と画家がいて云々という描写は、何やら萩上直子監督の「かもめ食堂」およびその類似作品のようなオーガニック系(?)の微温的シャシンを思い起こさせて、愉快ならざる気分になってくる。夫婦の会話が“です・ます調”の丁寧語であるのもワザとらしくて居心地が悪い。

 妻役の宮崎あおいをはじめ原田泰造、柄本明、吉瀬美智子、岡田義徳、加賀まりこ、西岡徳馬、朝倉あきといった多彩なキャストが揃っているが、大した演技もしていない。深川栄洋監督は若手のくせに不自然に“老成”していて、まるで安手のTVドラマのルーティンみたいな仕事ぶりだ。残念ながら、ぬるま湯に浸かったようなお涙頂戴劇としか思えない出来である。

 それにしても“地域医療に力を注ぐこと”と“医大の医局に属すること”とがまるでトレードオフみたいな対立構図に置かれているように見えるのには脱力する。事態はそんなに単純なものではないはずだ。
コメント
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