元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「うさぎドロップ」

2011-09-02 06:31:36 | 映画の感想(あ行)

 この監督にしては、意外にマトモな作りなので驚いた。SABU監督の持ち味は言うまでもなく“ハッタリかました作劇”である。ただしこれが作品のレベルアップに貢献することはあまりなく、自分だけ満足していて映画としてはハズしてしまう例が多かった。

 本作における主人公とグラビア美女がコスプレして踊る空想シーンなんかがまさにそれで、嬉々として撮っているのは分かるがほとんど効果を上げていない(笑)。しかしプロデューサーの仕切が上手くいったのか、それらを必要以上に長く引っ張ることはない。大方はストーリーを地道に追うことを心掛けているようだ。

 若い独身サラリーマン、ダイキチは、祖父の葬儀で見知らぬ幼女・りんに出会う。彼女は何とジイちゃんの隠し子だった。寂しげな彼女を放っておけず男気を見せて連れ帰るダイキチだが、当然子育ての経験なんかない彼にとって、その日から計り知れない苦労がのし掛かってくる。

 原作である宇仁田ゆみの同名コミック(私は未読)がどうなのかは知らないが、よく考えると随分と御都合主義的な設定である。ダイキチ以外にりんを直ちに引き取ってくれる親戚はいないものの、親類の数自体は多く、いろんなアドバイスをもらえる。妹は保母だし、保育所で知り合ったシングルマザーはダイキチのために何かと世話を焼いてくれる。

 勤め先は育休を認めるのには及び腰だが、ダイキチを残業の少ない部署に異動させる程度の便宜は図ってくれる。主人公の家は狭いながらも一戸建てだし、隣近所に過度に気を遣う必要もない。そして何より、りんが“平均的なよい子”であり、あまり深刻な問題は持ち上がらないのは有り難い(まあ、無断外出による騒ぎは引き起こすが ^^;)。とにかく、随分と恵まれた環境なのだ。

 これより厳しい条件で子育てをしている親はいくらでもいるだろう。だが、社会的情勢を鋭く描こうという作品ではなく、子供と暮らすハメになった若い男が悩みながらも成長していく姿を丹念に追うことを目的としているので、この程度は許容範囲内だと思う。印象に残ったのは“子供が出来たら強くなるのかと思っていたら、逆に臆病になった”という主人公のセリフ。当事者のみが認識する育児に対する哀歓が表現されていて出色だ。

 主演の松山ケンイチは好調。一本気だがナイーヴな主人公像を上手く演じていた。人気子役の芦田愛菜のパフォーマンスは実に達者。観客動員にも貢献していることだろう。高畑淳子や池脇千鶴、風吹ジュン、中村梅雀といった脇の面子も良い仕事をしている。ただ残念だったのは香里奈と桐谷美玲の若手女優陣で、大した演技もさせてもらってないし、そもそも彼女たちには出来ない。もっと実力派のキャストを配するべきだったと思う。監督が別の者だったらもっと良い映画になっていたような気もするが(爆)、とりあえずは観て損のない佳作と言えるだろう。
コメント
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