元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラーメン侍」

2011-09-29 06:27:05 | 映画の感想(ら行)

 アジアフォーカス福岡国際映画祭2011出品作品。ベタな映画だが、題材の面白さと出演者(主演を除く ^^;)の健闘により、何とか観ていられるレベルに達したという感じだ。監督の瀬木直貴はデビュー作「千年火」では大仰なテーマの扱い方や気負いすぎた映像処理によって観客に“何じゃこりゃ”と思わせてしまったようだが(笑)、この作品では泥臭いまでに平易なドラマ展開に徹しているようで、いずれにしろ自分の得意科目が見出せたという意味では、映画作家として進歩していると言えるだろう。

 原案は、人気ラーメン店のオーナーでもある香月均による自伝的コラム。舞台はとんこつラーメン発祥の地といわれる福岡県久留米市だ。東京のデザイン事務所に勤めていた主人公が、父の訃報を聞き故郷に戻って家業のラーメン店を継ぐことになる。しかし父親からはラーメン作りの手ほどきを受けたことは無く、記憶だけを頼りに先代の味を再現しようと試行錯誤を重ねる。

 舞台挨拶で瀬木監督も言っていたが、ラーメンは日本人が大好きな料理であるにもかかわらず、それをテーマにした映画は数えるほどしかないのだ。とんこつラーメンをネタにした作品に至っては、皆無ではなかったか。そこに目を付けたというだけで、本作の手柄はある程度約束されたと言えるだろう。

 しかも嬉しいことに、劇中に出てくるラーメンは実に美味しそうに撮られている。とんこつ独自の旨味に関してもうちょっとウンチクを語ってもらったり、他のラーメンとの差異を詳しく示してもらえればさらに興趣は増したと思うが、あまり突っ込むと冗長になる恐れもあり、これはこれで良かったのかもしれない。

 面白いのは主人公と父親とのエピソードが平行して描かれていることで、しかも同じ俳優(渡辺大)が演じている。これは“血は争えない”という意味での配慮かとも思うが、さらには一見性格や行動パターンが似ていないと思われるこの親子が、実は根っこの部分では共通点があるといったポイントを効果的に打ち出す上手い手法でもある。

 その二世代を繋ぐ重要な役割を果たすのが、先代の妻であり主人公の母親だ。山口紗弥加が10代から50代までを演じているが、彼女のパフォーマンスには唸らされた。こんなに上手い女優だったのかと思ってしまう。特に、ヤクザの事務所に単身乗り込んでブチ切れるあたりの演じ方は最高だ。他にも淡路恵子や津川雅彦らのベテラン陣に高杢禎彦や鮎川誠の地元ミュージシャン勢も花を添え、渡辺の大根ぶりを巧みにカバーしている(笑)。

 それにしても、劇中で主人公の“不況や大型店の進出で地元商店街が寂れたとか、そんなのは言い訳に過ぎない”という意味のセリフは重みがある。もちろん地域の弱体化は経済マクロの低迷や政府の無為無策が原因なのだが、まずは地域の人々が奮起しなくては何もならないだろう。決然として屋台を引く主人公の姿が、それを雄弁に語っていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする