元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ソーシャル・ネットワーク」

2011-02-10 06:31:41 | 映画の感想(さ行)

 (原題:THE SOCIAL NETWORK)ネット社会に対する作者の真摯なスタンスが印象的だが、それがまた作品世界の“限界”をも示している。巨大SNS「フェイスブック」の創設者マーク・ザッカーバーグの半生(とは言っても彼はまだ二十代半ばの若さだが ^^;)を描く本作、中年世代のデイヴィッド・フィンチャー監督の価値観が、良くも悪くも映画全体を覆っていると言えよう。

 ハーバード大に在籍していたザッカーバーグは最初から常軌を逸した人間として描かれる。かなりの早口で、しかも話す内容がコロコロ変わる。好奇心旺盛だが、目の前にいる他人が自分をどう見ているかに関しては無頓着だ。そのため交際相手には呆気なく振られる。その腹いせに学内の各クラブの名簿をハッキングし、個人情報垂れ流しの“女の子の品定めサイト”を開設してしまうヒネクレ野郎。他人が開発したシステムを無断拝借しても何とも思わない。

 やがて彼は音楽ファイル共有ソフト及びサービスの「ナップスター」の提唱者ショーン・パーカーと知り合うが、夜郎自大なパーカーの態度に“自分と似たもの”を感じ取ったザッカーバーグは、思わず意気投合してしまう。そんな独断専行を進めた挙げ句に、創業時の共同経営者で唯一の友エドゥアルドから訴訟を起こされる。

 オンラインでは5億人の友人を手に入れたのかもしれないが、一番繋がって欲しい人間からは無視されるばかり。要するに、ネットにハマり込んだ主人公は人間関係を蔑ろにしていた(これではイケナイ)という、ネガティヴな視点が垣間見えるのだ。

 ただしこれは映画の作者の“真っ当な”意見に過ぎない。実際にはどうなのだろうか。私はネット歴はけっこう長いが、それでもネットワーキングを始めたときにはすでに社会人だった。そのせいかオンラインおよびそれに派生した人間関係なんて、オフラインの従来からのコミュニケーションに比べて密度が数段低いことを早々に見抜く分別だけはあったと思う。

 しかし、ザッカーバーグのように子供の頃からネット環境が整備されている世代はどうなのだろうか。彼らにとってオンラインとオフラインとの違いは無いに等しいのではないか。古い世代には分からない、新しい価値観と新しいコミュニケーション。たとえそれが浅いものであったとしても、ザッカーバーグ達の視点に立ったテーマの描出に挑戦して欲しかったというのが、正直な感想である。

 フィンチャーの演出はいつもの余計なケレンを極力廃し、彼にしては健闘している。主演のジェシー・アイゼンバーグのパフォーマンスは見事だ。またパーカー役のジャスティン・ティンバーレイクも(劇中では一曲も歌わないが ^^;)カリスマ性を発揮していた。そしてトレント・レズナー(ナイン・インチ・ネイルズ)の音楽は本年度屈指のスコアになるだろう。
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