元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジャック・サマースビー」

2011-02-13 06:18:19 | 映画の感想(さ行)
 (原題:Sommersby )93年作品。キャストはそこそこ客を呼べそうだし、スタッフもまあ、破綻を見せないような面子を揃えているだけあって、いちおうは退屈しないで最後まで観ていられた。でも、魅力ある作品とは言い難く、観たあと2、3日もすればストーリーさえ忘れてしまうような、凡庸な出来である。

 南北戦争後、帰還したジャック(リチャード・ギア)のあまりの変わりように妻のローレル(ジョディ・フォスター)は当惑する。戦前の、いかにも南部の農場経営者らしい粗野で残忍な性格から、思いやりがあって皆に好かれる優しい男になっていたからだ。彼は痩せた土地をタバコ畑に変え、黒人を差別せず、人々の協力を得て理想の村作りに邁進する。別人ではと疑うローレルだったが、いつしか本気で愛し始め、幼い息子も彼になついていく。ところが、ジャックが過去の殺人罪で逮捕され、幸福な生活が一転して危機にさらされる。彼の正体を明かさなければ死刑が確定するかもしれない。はたして判決の行方は・・・・。



 設定としては面白い。しかし、小悪党だった主人公が、名誉のために命まで捨てようとする誇り高い男に変貌した過程がまったく省かれており、納得させるだけの演出もない。だいたい主役のリチャード・ギアが完全なミスキャスト。ぼーっとした善人面のギアに凄惨な過去のある男を演じさせるのがそもそもの間違いだ。

 “農地改革”以前の当時の小作農の厳しい生活や、迫害される黒人たち、KKK団の暗躍、ジャックを怪しむかつての友人(ビル・プルマン)、とまあ、いちおうドラマになりそうな素材を並べてはいるのだが、監督のジョン・アミエルはそれを“記号”として羅列するだけで、工夫して見せようという姿勢がない(出てくる黒人たちが全員“いい人”なのもシラけた)。

 人間のアイデンティティを問う重大なテーマを持つこの映画、突っ込みがまるで足りない。もっと登場人物の内面を掘り下げ、もっとサスペンスを盛り上げ、目を見張る緊張感で観客を引っ張ってほしかった。ジョディ・フォスターひとりで頑張ってもたかが知れているというものだ。

 実はこの映画には原典があるらしい。フランス映画「マーティン・ゲールの帰還」(82年、日本未公開)がそれだ。最近仏映画のアメリカ版リメイクが目立つが、成功したためしがない。ひょっとしたら原典版はもっといい映画なのかもしれない。機会があれば観てみたいものだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする