元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シェルブールの雨傘」

2009-03-23 06:23:59 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Les Parapluies de Cherbourg )64年作品。往年のミュージカル映画のデジタルリマスター版によるリヴァイヴァル上映である。実を言うと私は本作にスクリーン上で接するのは初めてだ。テレビ画面と劇場との感銘度の違いを含めて興味を持って鑑賞に臨んだ次第。

 結論から言えば、満足度はビデオの比ではない。何よりこの色彩感覚だ。ジャック・ドゥミ監督らしいカラフルな画面。単に色遣いが多様であるという次元を超えて、場面設定により精緻な配色が成されており、映画が進むごとにその巧妙さに舌を巻く。この再現性はTVディスプレイ画面では荷が重いだろう。

 そしてミシェル・ルグランの音楽。スクリーンミュージック史上に燦然と輝くキラーチューンを、ここぞというシーンで集中豪雨的に投入する見事なサウンド・デザイン。60年代の音源ながら音の粒立ちは色褪せていない。ピュア・オーディオシステムと同等のクォリティの装置を揃えれば一般家庭でも堪能できるかもしれないが、大多数のビデオ環境では無理だ。

 さて映画の内容だが、ストーリーは実にシンプル。舞台はフランス北西部の港町シェルブール。恋仲である小さな傘屋の娘と自動車修理工場で働く青年とが、アルジェリア戦争による召集令状によって数年間引き離される。容易にコンタクトが取れない境遇のため、いつの間にか疎遠になり、彼女は別の男と結婚。苦労の末に帰還した彼はそれを知って落ち込むが、やがて以前から知り合っていた若い女と所帯を持つ。要するに“万全ではない遠距離恋愛の顛末”である。

 これはアルジェリア戦争という特定のモチーフはあるものの、古今東西不変の題材だ。しかも、どちらか一方(あるいは両方)が不幸な結婚をしたというわけではないことが泣かせる。それどころか双方が理解のある相手に恵まれ、順調な生活を送っているのだ。でも、心の奥底では消しようもない未練がある。それを抱えつつも、しかし人生は続いていく。そのほろ苦き恋愛模様が観る者に切ない感動をもたらす。

 主演のカトリーヌ・ドヌーヴは最高に美しい。相手役のニーノ・カステルヌオーヴォもナイーヴな好演。オペラ形式で展開する、冴え冴えと美しい音楽とメロドラマのコラボレーション。最高に酔わせるミュージカルの逸品である。
コメント
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