元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「罪とか罰とか」

2009-03-07 06:34:20 | 映画の感想(た行)

 期待していなかったが、とても楽しめた。売れない三流アイドルが、ひょんなことから警察署の“一日署長”を務めることになる。しかし、その日に限って重大事件が勃発。さらに担当刑事は彼女の元恋人で、連続殺人犯という裏の顔を持っている。署長室は“拷問室”(笑)などがある地下の薄暗い一角に置かれ、署員には子供とか顔がモザイク処理されてよく見えない奴など常軌を逸した面々が揃っている。副署長にいたっては担当刑事の殺人癖を隠匿する始末。

 だいたい“一日署長”の“任期”が夜の12時までというのもあり得ないし、捜査の指示を出すなんてことも絶対にない。かようにふざけた設定と展開の映画ながら、紙一重で“下品な駄作”に終わってしまうことを回避しているのは、監督と脚本を担当しているケラリーノ・サンドロヴィッチの“舞台劇を意識した映画作り”によるところが大きい。本作が最初は演劇を想定していたという話は聞かないが、限定された空間での場面が目立つ点や、登場人物の動きが多いシーンであえてカメラの長回しを敢行したりと、明らかにステージ上での演出を連想させる映像処理が目を引く。

 別に“舞台劇がベースだから映画版もOKなのだ”と言うつもりはない。だが、製作する際に演劇版としての一つの“完成された作劇形態”を想定すると、スラップスティックなブラック・コメディを撮る場合には有利に働く。こういうスタイルの映画は、ぶっつけ本番で撮ると空中分解してしまうことが多々あるだけに尚更だ。時制を入れ替えたシークエンスの配置もなかなか妙味があり、そのへんのお手軽笑劇とは一線を画する単館系のスノッブな雰囲気(謎)を程よく取り入れている。

 そして映画全体を引き締めているのは、何と言っても主演の成海璃子だ。台頭著しい昨今の若手女優陣の中にあって、最も年少のレベルでいながら、一番大人っぽい。今回も実際の年齢より上の役柄で、劇中(実年齢にフィットしているはずの)高校の制服を着ている回想場面があるが、恐ろしく似合ってないのには苦笑してしまった。また心持ち“体重増えた?”という外見も相まって(爆)、かなりの安定感・重量感を醸し出している。いくら周囲がおどけていても全く動じないのだ。あたかも作品のアンカーの役目を果たすような存在感で、まことに端倪すべからざる人材と言うしかない。

 脇のキャストも多彩で、狂言回し的な役どころの段田安則や苦労が絶えないマネージャー役の犬山イヌコ、珍しく悪役に回る奥菜恵、さらに安藤サクラや麻生久美子の怪演など濃いパフォーマンスが繰り広げられる。ギャグの扱いは秀逸で、ラスト20分間のドタバタに収斂してゆく構成力も侮れない。さらには結果としてヒロインの成長ドラマとしての側面も感じられ、興趣の尽きない一作である。
コメント
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