元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「チェンジリング」

2009-03-03 06:27:26 | 映画の感想(た行)

 (原題:CHANGELING)もっと話を整理した方が良いと思った。舞台は1928年のロスアンジェルス。失踪した幼い息子を取り戻そうとする母親。数ヶ月という時間を経て見つかった“息子”は別人。果たしてその“息子”の正体は、そして本当の息子はどこへ行ったのか・・・・。こういう設定だと事件の真相が明らかになった時点で映画としては一応の“決着”が付くはずである。しかし、本作はそれから先が不用意に長いのだ。

 事件がひとまず終わって裁判に入るのは当然。だが、この映画は刑事裁判と杜撰な対応で事態を悪化させた警察当局に対する訴追の法廷とが平行して延々と描かれる。しかも、どちらも相当な分量である割には内容は予想通り。どう考えてもそれだけの上映時間を充てる必要のないパートだ。さらに、刑の執行までもが御丁寧に映し出される。それらの部分がストーリーラインとして何か重要なプロットであるかというと、実はまったくそうではない。ただ漫然と“それから、こうなりました”という顛末を滔々と述べているに過ぎない。ハッキリ言ってこんなのは映画のラストにテロップで流せば済むことではないのか。

 事件発生から事実の解明までを綴った前半部分はそれなりにまとまっていたが、後半になるとまるで腰砕けである。終盤近くには、映画自体がどうでも良くなってしまった。効果的な作劇にするためには、いくらでも方法があったはずだ。たとえば、見つかった“息子”の生い立ちと本当の息子が置かれた状況とを交互に描き、事件の深刻性を強調するという手もある。腐敗した警察とヒロインとの心理的対立に着目してギリギリのサスペンスを醸し出すというやり方だってあったはずだ。この映画は総花的でドラマツルギーの“重要ポイント”が絞られていない。これでは評価できない。

 しかし、どうして作者がこういう視線の定まらない路線を取ったのか、あることに思い当たれば全て辻褄が合う。それは、この映画が長老派教会のPRを想定しているのではないかということだ。早々にヒロインに対する支援を表明するのが長老派教会。彼らは理不尽にも精神病院に収監された主人公を救い出すのみならず、有能な弁護士を付けてくれる。そして何よりロス市警への追求の急先鋒であり、完全無欠の正義の味方ぶりを印象づける。この無駄に長い上映時間は彼らの活躍を逐一リポートするためではないかと、穿った見方もしたくなる。

 監督のクリント・イーストウッドが長老派教会の支持者だという話は聞かないが、彼は長老派の信者が多いというスコティッシュ系だというし、あながち無関係とは言えないような気がする。なお、この映画は実話に基づいているものの、劇中に出てくる長老派教会のギュスターヴ・ブリーグレヴ牧師がこの事件にかかわったという記録はないという。

 主演のアンジェリーナ・ジョリーは熱演だが、濃いメイクも相まって存在感よりも痛々しさの方が先に出てくる。正直、別の女優を起用した方が良かったと思う。牧師役のジョン・マルコヴィッチにしても、いつもの面白味はない。彩度を落としたストイックな映像と当時の雰囲気を良く出している舞台セットはなかなかのものだが、それだけでは作品自体を持ち上げるには不足だ。個人的には、評価できない映画に終わってしまった。
コメント
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