元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「老人Z」

2009-03-04 06:31:35 | 映画の感想(ら行)

 91年作品。原作・脚本・メカニックデザインに大友克洋、キャラクターデザインに江口寿史、監督が北久保弘之、以上のスタッフによるアニメーション映画。

 舞台は近未来。政府は来るべき超高齢化社会に対応するため、寝たきり老人の完全看護システム「Z」を開発する。第六世代コンピューターを搭載し、移動する場所に合わせて変形、完璧な医療装置とネットワーク機能を持つこの「Z」のモニターに選ばれたのが、看護学生の晴子が担当している高沢老人だった。老人を無理矢理「Z」の中に押し込めて研究室に隔離した当局側だが、「Z」の通信機能を使って老人は晴子の学校のコンピューターにSOSを飛ばす。大学病院に入院している元ハッカーの老人たちの助けを得て、「Z」と交信することに成功したのもつかの間、「Z」は高沢老人の脳波とシンクロし、老人の思い出の場所をめざして暴走を開始する。

 まず、アイデアが素晴らしい。意志を持った老人介護ロボットがモビルスーツ化して暴れ出すという発想。スピルバーグだって思い付かない。そしてとんでもないアクション・シーンの連続。他のメカを吸収同化して成長を続ける「Z」の造形デザインの非凡さ。クライマックスは「Z」を上回る新型メカニックと「Z」との激闘だ。たたみかけるような演出で息をもつかせない。

 しかし、アクション一辺倒のジェットコースター・ムービーとは明らかに違う。キャラクターすべてに血が通っており、ムダな登場人物が一人もいない。随所にギャグを盛り込んでおり展開が一本調子にならない。そして特筆すべきは老人の回想シーンに見られる小津安二郎的なノスタルジックなタッチや、老人のアパートのいかにも庶民的な空間の描写で、作者は日本映画のよさを相当理解しているとみた。

 ラストの秀逸なオチまで、存分に楽しませてくれるこの作品。間違いなく90年代初頭を代表する国産アニメーションの佳篇だ。
コメント
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