元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「静かな生活」

2009-03-02 05:49:06 | 映画の感想(さ行)
 95年作品。大江健三郎の同名小説の映画化で、両親の渡航中に起こる障害者の兄と妹の穏やかならぬ日常を描いたドラマ。伊丹十三の監督作は出来不出来が激しいけど、これはダメな部類の映画だ。だいたい障害者のイーヨーを演じる渡部篤郎がいけない。健常者が障害者のマネをしてフザけてるだけとしか思えない。観客および障害者をナメてるのかな?

 大江健三郎の原作は読んでないが、「静かな生活」というタイトルから、多分知的障害者の長男を抱えつつもフツーの家庭と同じあるいはそれ以上の温かい愛情に溢れた家族の風景を淡々と描く、文字どおり“静かな”作品ではないかと思うし(違ってたらゴメン)、映画化もそれに添ったものだと予想していた。

 しかし、伊丹十三に“静かな”映画が撮れるわけがない。渡部某のトホホな演技に代表されるように、俳優の顔を大げさにとらえるクサい演出と、説明過多のセリフが渦を巻き、伊丹流のハッタリ芝居が淡々となるはずの作劇をことごとくぶち壊していく。それでもマーちゃん役の佐伯日菜子の健気さとシッカリとしたカメラワーク(鮮やかな色づかいはけっこう見せる)が何とかドラマの低俗化を食い止めていたように思う。少なくとも前半までは。

 後半、水泳コーチの新井君(今井雅之)が登場するあたりで完全に映画が終わってしまった。いかにも伊丹監督が好きそうな、下半身ネタのオンパレード。新井君の過去のスキャンダルにまつわる覗き見趣味の展開やら、下品な中年女が出てきたり、劇中劇のほとんどアダルトビデオと変わらない描写とか(それも小難しいナレーション付きで)、極めつけは新井君がマーちゃんに襲いかかるシーン。作者の下心がてんこ盛りで、こういうのは他の映画でやってほしい。

 両親が海外に出かけて留守で、兄弟たちだけの生活の中で起こった事件を描いているが、こんな下世話な出来事は(大げさなようでいて)何ら彼らに影響を与えない。せいぜい“世間は怖いよ”ぐらいの図式的な教訓だ。もっと何気ない事件の方がうまく描けばインパクト強かったのでは・・・・と言っても無駄な気もするが(^_^;)。

 大江と姻戚関係にあった伊丹とはいえ、こうもピントの外れた映画をよく撮ったものだ(撮って恥じないのも伊丹らしいけど)。当時は注目されていた大江光の音楽だが、少なくともここでは大したものとは思えない。
コメント
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