元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハルフウェイ」

2009-03-05 06:26:06 | 映画の感想(は行)

 切なくて爽やかな学園ドラマの良作だ。世俗にまみれた生臭い日々を送る私のようなオッサンにとっては、一服の清涼剤の役割を果たしてくれる(爆)。あの頃に置き忘れてしまったようなピュアな心情を・・・・というか、私の場合そもそも当時からそんな心情があったのかどうか非常に怪しいが(笑)・・・・さり気なくスッと想起させてくれるような、そんな甘酸っぱい気分に浸ることが出来る。

 話としては実に他愛がないものだ。北海道・小樽の高校を舞台に、付き合い始めたボーイフレンドが東京の大学への進学を希望していることが判明し、自分と離ればなれになることに気を病むが、反面好きな相手には自分の道を突き進んで欲しいという気持ちもあり、そんなこんなで悩みに悩む女生徒を主人公として描いている。

 ハッキリ言って、この年代でのそういう屈託は長い人生の間のちょっとした“通過点”にすぎない。中高年になって振り返れば“ああ、そんなこともあったか”と笑い飛ばすような出来事である。ただし、人生というのはその些細な“通過点”の積み重ねであることも、また事実だ。もしも相手が地元の大学を受験し、ずっとヒロインと一緒にいたとして、そのまま微温的な関係を向こう何年間続けていても、それが二人にとってプラスになるのかどうかは誰にも分からない。反対に、二人が距離的に隔てられていても、それを乗り越えることが出来るならば決してマイナスにはならないだろう。

 先のことは予想できないが、今この瞬間に相手のことを思いやること、そして自分の“本当の心の声”に耳を傾けること、そんな真摯な姿勢こそが“単なる通過点”を掛け替えのない人生のマイルストーンへと押し上げる原動力となるのだ。

 本作で監督デビューする北川悦吏子はテレビドラマで数々の実績を残した脚本家だが、私はそれらのドラマを見たことがないので北川の作風がどういうものかは分からない。しかし、この映画は製作を担当している岩井俊二のカラーが色濃く出ていると思う。特に作品の雰囲気が岩井の監督作「花とアリス」とよく似ている。演出家の個性をどう発揮させるかという点においては万全な結果ではないのかもしれないが、出来が良ければそれでヨシだろう。

 主演の北乃きいは今回は自然体の演技で勝負。即物的なカメラワークも相まって、観る者に“彼女の実生活もこんな感じではないのか”(笑)と思わせるほどの説得力を持つ。今後が楽しみな若手の逸材だ。相手役の岡田将生も良い。進学校の生徒という設定にしては少々チャラい外見だが(爆)、決して下品にならず演技に安定感がある。友人役の仲里依紗も相変わらずイイ味出しているし、教師役に大沢たかおが出てきた時は“これは「ラブファイト」の二の舞か!”と危惧したが、今回は出しゃばらずに北乃との共演場面を印象的なものにしている。

 キリリと冷えた北海道の秋の空気感。茫漠とした風景に紅葉がアクセントを付ける。小林武史の音楽とSalyuによるエンディングテーマも申し分ない。甘酸っぱい気分で劇場を後に出来る、なかなかの佳篇だ。
コメント
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