元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「パラノイドパーク」

2008-05-07 07:43:23 | 映画の感想(は行)

 (原題:PARANOID PARK )以前紹介した「潜水服は蝶の夢を見る」が撮影監督ヤヌス・カミンスキーの映画であったように、この作品もクリストファー・ドイルによるカメラワークが光る。誤って人を殺してしまった男子高校生の、移ろい行く内面を幻想的なタッチで綴る映像処理が饒舌だ。

 一見、短い上映時間(85分)の中にあまりにも心象風景的な画面が多く挿入されているので、肝心のドラマ部分が示されていない傾向があると思うのだが、実は刑事事件としての進展があまり見られないまま、主人公の心理ばかりを追うという設定では、これ以上ドラマ部分を増やしても仕方がないのだ。

 バカなことをやったという悔恨の情、被害者に対する後ろめたさ、そして時が経つに連れ彼の内面を占めてゆく“(バレていないので)無かったことにしよう”という俗物的な身も蓋もない感情、それらが入り混じって主人公を圧迫していく。日常面ではあまり変化がないだけに、この心理面でのプレッシャーはけっこうリアルだ。

 ただし、似たような題材を扱う岩井俊二の「リリイ・シュシュのすべて」と比べれば、かなり薄味でもある。その理由は明らかで、本作はあまりにも“語るに落ちる”シチュエーションが目立つからである。主人公の両親は別居中で、しかも自分のことしか考える余裕がない。放任主義になるのは当然として、そのために彼の中に厭世的な気分が横溢し、事件に繋がった・・・・ということが滔々と綴られるのは、ハッキリ言って図式的だ。

 さしたる具体的な理由がなく、目に見えない思春期の不安と苛立ちをヴィヴィッドに描き出し、終盤の暗転を説得力有るものとした「リリイ~」と比べると、この映画は作者の“覚悟”といったものが足りないように思う。ガス・ヴァン・サントの作劇は同じく少年犯罪を扱った前作「エレファント」よりは平明にはなってきているが、大事なところで及び腰になっているのは一緒である。

 それにしても「エレファント」もそうだったが、オーディションで選ばれたという素人同然の主人公役の俳優は、絵に描いたような美少年である。やっぱり作者には“そういう趣味”があるのだろう(笑)。舞台になるオレゴン州ポートランドの薄ら寒い風情も捨てがたい。
コメント
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