元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブラックサイト」

2008-05-02 06:34:47 | 映画の感想(は行)

 (原題:Untraceable )単純なサイコホラーとしての構図ながら、観た後に苦いものが込み上げてくるのは、題材ゆえだろう。

 誘拐殺人の“現場”を実況中継する闇サイトが出現。アクセス数が一定のレベルに達すると“処刑”が実行されるという凶悪なものだ。しかも、その手口は残虐極まりなく、一目で異常者の所行と分かるが、犯人を追うFBIと警察はやがて意外な事実に直面するという筋書きだが、作品の見どころはホラー好きが喜ぶそれら“処刑装置”の仕掛けよりも、犯人の動機であろう。

 手当たり次第に犠牲者を選んでいるようでいて、実は確固とした理由に基づいて犯行を進めてゆく。インターネットに端を発した犯罪が目立つ昨今であるが、いくぶん下世話な作りとはいえ、ネット社会の危険性に関して具体的に言及している点が本作の手柄かもしれない。

 映画の序盤に交通事故の様子が映し出される。当然あたりは渋滞が発生しているが、ノロノロ運転の果てにようやく事故現場の前を通り過ぎるとき、誰もが速度を落として道に転がった死体を凝視する。後で彼らはそのことをどう感じるか。たぶん“犠牲者は可哀想だ”とは思ってはみるものの、それに勝る正直な感想が“いやー、スゴいもの見ちゃったよー”といった身も蓋もない野次馬根性だろう。そしてそのことを周囲の連中に話のタネとして触れ回るのだ。この画面がネット上にアップされると、口コミが口コミを呼び、悲惨な事故の有り様は一種の“娯楽”として不特定多数に閲覧される。

 捜査当局はアクセス数の増大が“処刑”の早期実行に繋がることをメディアに伝え、サイトを見ないように訴える。しかし、事件が続くたびにアクセスは増加するばかり。冒頭の交通事故のように、偶然居合わせた者だけが目撃できる“現場”とは違い、ネット上では誰しも惨劇の傍観者になれるという暗い欲求がオンラインで幾何級数的に伝播してしまう、その不気味さ。

 そして映画はその“惨劇映像”の関係者がどう思っているのかも結果的に描き出す。見る方にとってはただの残酷エンタテインメントだが、当事者はたまったものではない。何やらこれと似たようなことが、近々実際に起こるような予感がして嫌な気分になってくる。

 グレゴリー・ホブリットの演出は取り立てて優れたところはないが、無理なく話を進めていて及第点だ。ヒロイン役のダイアン・レインはかつてのアイドル時代を知る者にとって見るのが少し辛いような老け具合ながら、まだまだ色香は残っているし、最後の見せ場もしっかりこなす。舞台となったオレゴン州ポートランドの、暗鬱な冬場の風景も効果的だ。
コメント
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