元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サラフィナ!」

2008-05-13 06:32:07 | 映画の感想(さ行)
 (原題:Sarafina! The Sound of Freedom)92年南アフリカ作品。ズールー語で“小さな天使”という意味の名を持つサラフィナ(レレティ・クマロ)は女子高生。南アフリカの黒人居住区ソウェトで伯父や幼い兄弟たちと暮らしながらも、いつかハリウッドで女優になることを夢見ている。そんな彼女のまわりにもアパルトヘイトの圧政とそれに対抗する抵抗運動の波が押し寄せていた。ある日、サラフィナの学校が何者かに放火される。アパルトヘイトに反抗した学生たちの仕業だとにらみ、犯人探しに躍起となる政府。ひとり毅然と魂の自由を訴えていたマソムブカ先生(ウーピー・ゴールドバーグ)が逮捕され、サラフィナたちの怒りは頂点に達するが・・・・。

 ブロードウェイで2年間ロングランされたミュージカルの映画化。監督は一貫して反アパルトヘイトをテーマにした作品を手がけている南アフリカの若手ダレル・ジェームズ・ルート。

 この作品がミュージカルである意味は何か、という疑問が頭をよぎった。私にはその理由が最後までわからなかった。ミュージカル映画は楽しくなくてはいけない、それが私の持論である。どんな深刻なテーマを扱っていても、いい音楽が流れ、ダイナミックな踊りが展開されるとき、画面からあふれ出すパッションは観客を圧し、映画を観る楽しさを存分に味わえる。それがミュージカル映画だと思う。対してこの映画には、そういう楽しさは皆無だ。

 確かに歌も踊りもある。振り付けはマイケル・ジャクソンの「スリラー」を担当したマイケル・ピーターズ。悪いはずがない。しかし群舞のシーンは3つしかない。そのうち1つは他のシーンの合成にすぎない。ソロで歌われる場面もほとんどない。ミュージカルらしいシーンが不足していると思う。しかも、それがテーマの重さに完全に負けてしまっているのだ。

 警察・軍隊の黒人に対する理不尽な圧迫、留置場での当局側の残虐行為の告発、社会派映画としての色彩が強く、ミュージカル映画の側面がまったく楽しめない。

 さらに不満なのは、政府の横暴を現象面でしかとらえておらず、“アパルトヘイトはなぜ起こったか”という本質が見えてこないことである。もっと言えば“どうしたらアパルトヘイトはなくすことができるか”が伝わってこないことである。ひょっとしてネルソン・マンデラが釈放されれば解決したとでも思っているのだろうか(そんなバカなことはないと思うが)。“我々はこんなひどいことをされました”“警察・軍隊は信用できません”、こう言われると主人公たちに同情せざるを得ない。でも、同情だけでそのまま映画の感動につながれば苦労はしないのだ。プラスアルファの新鮮な作者の視点、鋭い描写etc.それがなければ観客は納得しない。

 観終わってみれば“単なる重い映画”であり、観たことを後悔したのも事実。“ウーピー・ゴールドバークが歌って踊る楽しそうな映画”だと思っていた大部分の公開当時の観客の落胆はさらに大きかったのではないだろうか。
コメント
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