元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミスト」

2008-05-28 06:32:20 | 映画の感想(ま行)

 (原題:THE MIST)フランク・ダラボン監督の“鬼畜系”たる本性が全面開花した怪作。「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」を観て、彼を“ハートウォーミングなヒューマンドラマの作り手”だと思っていた観客は目を剥いて驚くだろう。

 前述の2作と同様、原作はスティーヴン・キングの著作だが、今回のネタはキングの真骨頂であるホラーものだ。舞台はキング作品ではお馴染みのメイン州の田舎町。嵐の後に地元のスーパーマーケットに買い出しに来ていた住民らが突如現れた濃い霧の中に閉じこめられてしまう。しかも、霧の中には怪しいモンスターが潜んでおり、犠牲者が続出する。

 一部の批評では“本作で一番恐ろしいのは霧の中の怪物どもではなく、極限状態に置かれた人間たちの醜態だ”ということが指摘されているが、個人的にはそれは予想通りで意外性もなければインパクトも受けなかった。“これは世界の終末だ。神の怒りだ。生け贄が必要だ!”とわめくキリスト教の狂信者のオバサン(マーシャ・ゲイ・ハーデン)が出てくるが、キング作品では珍しくもない。切羽詰まっていつの間にやら彼女のトンデモ説に迎合してしまう者が次々と出てくるくだりも、ありがちな展開だと思った。

 それよりも本作が凄いのは、原作とも違う“究極の暗転”たるラストに繋がる脚本の持って行き方である。幼い息子を守ろうとする主人公(トーマス・ジェーン)、そして何とか現状を打破しようとする登場人物達の、その一挙手一投足がすべてマイナス方向に振られるという徹底ぶり。小さな伏線が寄り集まって大きな惨劇のトリガーになってゆくという、悪意に充ち満ちた精妙ぶりを見せるプロットはある意味圧巻だ。まるで70年代に流行ったパニック映画のルーティンを、すべて裏返してゆくようなエゲツなさがある。ローランド・エメリッヒ監督が「デイ・アフター・トゥモロー」でこれと似たようなモチーフを取り入れたことがあったが、凶悪さと開き直り加減では本作の方がはるかに上だ。

 グロ度は原作を大きく凌駕。各クリーチャーの気色悪さもこの手の映画では上位入賞間違いなしである。感動ものと見間違うようなポスターと惹句に騙されてうっかり劇場に入ってしまったカタギの観客の皆さんはお気の毒としか言いようがない(爆)。そういえば途中退場する客も目立った。

 外道なストーリーを嬉々として演出しまくるダラボンには、ぜひともキング作品の本流(ホラー系)をどんどん映画化して欲しい。ちなみに「ニードフル・シングス」あたりを手掛けたら、邪悪な秀作に仕上がるだろう(^^)。
コメント
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