元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「大いなる陰謀」

2008-05-09 06:36:53 | 映画の感想(あ行)

 (原題:LIONS FOR LAMBS )リベラル派でエコロジストのロバート・レッドフォードは、これまでも監督作にそのスタンスを表明するようなニュアンスを匂わせてきたが、この新作においては直截的な物言いに完全移行していることに驚かされる。それだけ危機感を募らせているということか。

 ベテランの女性ジャーナリスト(メリル・ストリープ)からアフガン情勢についてインタビューを受ける共和党の有力上院議員(トム・クルーズ)、出席日数が足りない優等生にその理由を問い質している大学教授(ロバート・レッドフォード)、件の上院議員が計画したアフガンの新作戦に兵士として参加するその教授のかつての教え子二人、映画はこの三つの局面を平行して描いている。

 この中で一番興味深いのが議員とジャーナリストとの会話だ。議員は新作戦により事態が抜本的に好転することを狙っている。しかし、過去の例を見るまでもなく現場もよく知らない政治家が勝手にデッチ上げた軍事作戦が成功することは稀だ。予想通り人員と労力の浪費に終わるのだが、前線で戦う兵士にとっては“上手くいきませんでした”では済まされない。見通しが立たない作戦を押し付けられた現場要員こそいい迷惑である。

 そしてそんな“上部からの指示”により修羅場をくぐる羽目になる一兵卒の代表として、何とか国のために尽くしたいと考えるマイノリティ人種である元学生を設定しているあたりも皮肉が効いている。社会的に恵まれない層の出身で、苦労して大学まで行くものの、やはり偏見からは逃れられず、いちおう“平等”との建前の兵役には付いてはみるが、結局は使い捨てられてしまう。エリート連中が御大層な空論を弄んでいる間に、国を愛する一般庶民は辛酸を嘗めるばかり。この構図に対しレッドフォードは力を込めて抗議する。

 しかし、かつて自分が主演した「大統領の陰謀」の時代とは違い、“政治家は悪、マスコミを含めた民衆側は善”というような単純なスタイルは絶対取らない。舌鋒鋭く議員に迫った手練れの女性ジャーナリストにしても、脳天気なトム君扮する政治屋に“9.11当時、世論にすり寄ってアフガン派兵を煽ったのはマスコミだ!”と突っ込まれてすごすごと引き下がるしかない。

 また、民主党支持者が多いハリウッドらしい“だから共和党はダメなのだ。民主党ならば何とかしてくれる”といった安易な物言いも、完全に封印している。そもそも過去のいくつかの大戦は民主党政権時に勃発しているし、レッドフォードとしてもオリヴァー・ストーンみたいな単純な“民主党マンセー”のポーズを取れるわけがない。

 有名スターが出ている割には地味な印象を受ける作品だが、作者の真摯な姿勢が見て取れるのは悪い気分ではない。多すぎるかと思われる会話量も、良く練られていて弛緩する部分がない。昨今目立つアメリカ映画のシリアス路線だが、昔の“自己反省スタイル”には特化しておらず、重層的な問題提起をしている点で興味津々だ。某評論サイトでは“やがてそのうち米軍バンザイ映画が目立つようになる”などと書かれているが、すでに“米軍バンザイ”の図式を挿入する余地がなくなってきている現在、この流れが元に戻ることはないと思う。
コメント (2)
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