元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハンティング・パーティ」

2008-05-26 06:38:29 | 映画の感想(は行)

 (原題:THE HUNTING PARTY )チベット問題に関して反・中国のスタンスを取るなどポリティカルな姿勢で知られるリチャード・ギアらしい作品。とはいっても、かねてから映画において硬派の主張を行ってきたロバート・レッドフォードとは違い、しょせんは「アメリカン・ジゴロ」のギアなので(笑)、まずはオフビートなノリで観客を惹きつけ、徐々にハードなネタに誘導するという作戦をとっている。結果的にそれはある程度成功したといっていいだろう。

 売れっ子のテレビリポーターだった主人公(ギア)は、オンエア中に“真実の報道”を実行した結果クビになり、今ではCATVのチマチマした仕事で糊口を凌いでいる。対してかつての相棒だったカメラマン(テレンス・ハワード)はキー局専属にまでのし上がる。ひょんなことからボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で民族虐殺を行った犯人の行方を知るに及んだ・・・・と、かつてのパートナーに“特ダネ”を持ちかけた主人公は、コネ入社の若手プロデューサー(ジェシー・アイゼンバーグ)を加えた3人で、旧ユーゴの危険地帯へ突撃取材を試みる。

 反体制勢力やCIAといった胡散臭い連中を、これまた大風呂敷を広げて煙に巻きつつ“目標”に向かって突き進む3人の様子は、まさに珍道中で笑いを呼ぶ。だいたい実在の人物である主人公の手記による実録物という体裁を取っていながら、映画のモチーフとして嘘か本当かわからないネタを散りばめているのが実に臭う(爆)。

 しかし、映画のテーマはかなり重い。ここで悪役として槍玉に挙げられているラドヴァン・カラジッチなる実在の政治活動家は、500万ドルの賞金首でありながら米国もNATOも本気で追う気はなく、同じ構図はオサマ・ビン・ラディンについても当てはまる・・・・とされている。そう成らざるを得ない裏の事情が存在するらしい。

 そういった陰謀論めいたものを丸ごと信じてしまうほどこっちは脳天気ではないが、イラクへの対応に代表されるように、アメリカの求心力が陰りを見せていることは明らかな事実であり、これはこれでフィクションとしての存在感はある。最近のアメリカ映画を覆う“政治の季節”なしには考えられない作品であるのは確かだ。

 リチャード・シェパードの演出はテンポはあまり良くないが、主演3人のパフォーマンスでそれをカバーしている。ドキュメンタリー・タッチが光るデビッド・タッターサルの撮影も見事。劇中最も衝撃的だったのが、かつてのサラエボのオリンピックの競技会場が軍の練習場に使われた挙げ句に荒れ果て、今では見る影もない様子が映し出されるところだ。平和の祭典といえども、つまらぬ抗争によっていとも簡単に踏みつけられてしまう現実。今の北京オリンピックを巡る確執にオーバーラップしてしまう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする