元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幸福な食卓」

2007-02-09 06:46:56 | 映画の感想(か行)

 新人女優・北乃きいの爽やかな存在感が堪能できるホームドラマだ。昨今は“U-21”とかいって(笑)、現時点で21歳以下の女優にかなりの人材が揃っていることが何かと取り沙汰されているが、彼女も確実にその一翼を担うことになるだろう。

 とびきりの美少女ではないが、ソフトな中に芯の強さを感じさせる手堅い雰囲気と、役柄を自然体で取り込めるような演技のカンを持っている。どこかデビュー当時の富田靖子を思い出してしまった(笑)。本作の魅力の大半は、彼女と相手役の勝地涼(彼のキャラクターも最高)とのコンビネーションが生み出していると言っても良い。

 瀬尾まいこの同名小説の映画化で、父は突然“父さんを辞める”と言いだしフリーター生活に突入、兄は大学進学せずに将来モノになるのか分からない新規の農業に没頭、母はとうの昔に家を出ている。こんなバラバラな家庭を描いてまったく映画が暗くならないのは、作者の徹底した楽天性にある。バラバラな家族を何とか立て直さなければならないという“気負い”は脇に置いておき、家族なんだからバラバラになれるわけがないという、思いっきりポジティヴな視点が貫かれている。これを対象から付かず離れずの無理のない演出でユーモラスに盛り上げる小松隆志の腕は職人芸だ。

 ただし、脚本は持久力が足りない。中盤以降の暗転からヒロインがそれに折り合いを付けるまでのくだりが妙に駆け足なのである。さらに、石田ゆり子扮する母親のキャラクター設定が不明確で、思い余って職を投げ出す父親との作劇上の釣り合いが取れていない。クドクドと説明する必要はないが、真相を暗示するようなモチーフのひとつやふたつ挿入しても良かったと思う。

 山梨県でロケされているが、先に観た「酒井家のしあわせ」や「幸福(しあわせ)のスイッチ」と同じく、舞台を地方に設定することで生活感が強く印象づけられる結果になった。主要キャスト以外では兄の恋人に扮するさくらが面白い。蓮っ葉に見えながら実は純情というオイシイ役どころを勢いで演じきっている。ただのグラビア・アイドルではないんだね(笑)。
コメント
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