元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「21g」

2007-02-02 06:47:16 | 映画の感想(英数)
 (原題:21 Grams)2003年作品。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の前作「アモーレス・ペロス」は未見だが、ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロ、シャルロット・ゲンズブールという芸達者なキャストに思う存分演技をさせ、移植された心臓をめぐる因縁話といった、いささか暗い話を切迫感あふれるタッチで仕上げているあたり、その実力派ぶりがうかがわれる。色調を抑えたザラザラとした画面も効果的だ。

 しかし、不満の残る出来でもある。そもそもこのネタで時制をバラバラにする必要があったのか。この手法はランダムに並べられたシークエンスの間に起こった事を観客に想像させることによってドラマに深みを持たせる場合は実に有効だ(例:「メメント」や「RUSH!」などのサスペンス編)。しかし、この映画のようにどう考えても筋書きが一方にしか流れない題材では、いたずらにプロットを攪乱させるだけである。

 おかげで主人公が心臓提供者の妻に強い興味を持った理由や、ラスト近くのドラマ運びといった大切な部分が釈然としないまま終わってしまった。

 どうしても時制を崩したいのなら、たとえば“心臓を移植しなかったらどうなるか(その方向で別の筋書きも用意する)”という具合に映画の前提部分から揺さぶりを掛けるぐらいの思い切った企てを講じるべきではなかったか。そっちの方が登場人物の内面描写にも多様性が出てきたはずだ。力作ではあるが、いまひとつの脚本の踏み込みが足りない。惜しい出来だと思う。
コメント
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