元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エデンより彼方に」

2007-02-06 06:43:19 | 映画の感想(あ行)
[概要](原題:Far From Heaven)。2002年作品。50年代のコネティカット州ハートフォードを舞台に、夫に裏切られた白人女性と誠実な黒人男性との心の交流を描くトッド・ヘインズ監督作品。当時のアメリカ映画の意匠を再現している点も話題である。

[感想]「ベルベット・ゴールドマイン」を観ても明白なように、トッド・ヘインズ監督はゲイである。だからここで彼が一番描きたかったのは、ジュリアン・ムーア扮するブルジョア婦人とデニス・ヘイスバート扮するインテリ黒人との“人種差別ネタを織り込んだメロドラマ”なんかではない。デニス・クエイド演じる夫が同性愛をカミングアウトし、妻を捨てて新しい「恋人」と新生活に踏み出すプロセスの方である。

 ただし、彼はここであえて自らの嗜好を抑制し、ホモセクシュアルを50年代風恋愛劇の再現といったユニークな試みの“巧妙な隠し味”として機能させようとしている。その意図はいいとして、問題は本筋となるべき白人女性と黒人男性との話がさっぱり面白くないことだ。

 人種を越えた色恋沙汰が絶対的なタブーであった時代に、この二人はわざと自分たちが窮地に追い込まれていく行動ばかり取っている。これでは説得力ゼロだ。メインのストーリーが穴だらけでは、同性愛ネタも取って付けたように成らざるを得ない。結果として釈然としない出来になってしまった。

 まあ、それでもこの映画の“外観”はめっぽう美しい。エルマー・バーンスタインの古き良き時代を思わせる旋律とエドワード・ラックマンのカメラによる流麗な映像。そしてサンディ・パウエルが担当した衣装デザインの素晴らしさといったら・・・・。贅沢な“美術品”としてなら、大いに観る価値はある映画だ。
コメント
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