豪華スタッフ・キャストを揃えての10本のオムニバス。最近原作を読み返したが、やっぱり夏目漱石作品の映画化は難しいということを実感した。
真正面から正攻法でぶつかっていったのは実相寺昭雄による「第一夜」ぐらい。市川崑による「第二夜」はサイレントにすることにより、巧妙に夏目作品との“格闘”を避けているように思えた(そこが老獪さなのであるが ^^;)。「第七夜」を天野喜孝と河原真明によるアニメーションにしたところはナイス・アイデアだ。
しかし、あとの作品はどうも作者の気負いが空回りしているように見える。いつもはオリジナル脚本で勝負する西川美和の「第九夜」にいたっては、題材そのものが足かせになっているようで居心地が悪いことこの上もない。もっともホラー色が強い「第三夜」はこの分野が得意であるはずの清水崇が担当していながら、まったく盛り上がらないのには困った。山下敦弘の「第八夜」は、いったい何をやりたかったのかさっぱり分からない(もちろん、原作とも懸け離れている)。
で、空回りした挙げ句に“脱輪”して開き直ったのが松尾スズキによる「第六夜」。運慶が仁王像を彫り出すという、含蓄に富んだ原作を、見事なおちゃらけにしてしまった。踊る運慶と、見物人の2ちゃねらー(爆)。意味のない英語字幕とヤケクソとしか思えないオチは、さすが「恋の門」でハチャメチャを極めた感のある松尾監督だ。
全体的に要領を得ない出来とはいえ、こういう企画は悪くはない。少なくとも「Jam Films」シリーズみたいな漫然としたオムニバスよりは、コンセプトがしっかりしている分、楽しめる。欲を言えば、もっと早い時期に製作してもらいたかった。実相寺と市川に加え、今村昌平や石井輝男、黒木和雄に深作欣二といった巨匠達が健在な時に、こういう企画を担当させたら、どんなにか面白かっただろう。