元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「世界最速のインディアン」

2007-02-20 06:45:39 | 映画の感想(さ行)

 (原題:The World's Fastest Indian)スピード記録競技会が行われているアメリカ・ユタ州のボンヌヴィル・ソルトフラットにおいて、二輪部門で世界最高速度を出した還暦過ぎのオートバイ野郎、バート・マンローの伝記映画。

 これはなかなか痛快な作品だ。映画の面白さが三本立てになっているところが良い。まずは地元ニュージーランドでの破天荒な暮らしぶり、そしてアメリカに渡ってから目的地までの珍道中を描くロードムービー、もちろん最後は迫力のレース場面と、一時たりとも観客を退屈させない構成だ。

 監督・脚本・製作は「ダンテズ・ピーク」や「13デイズ」のロジャー・ドナルドソンだが、娯楽編の職人監督としての腕と、生前のマンローに出会って心酔した自らの思い入れが、いい感じで両立している。通常作家が入れ込んだネタで勝負する際、肩に力が入りすぎて失敗することが少なくないのだが、本作はさすが26年間も構想を練っていただけはあり、シナリオ作成には細心の注意を払ったことが窺われる。

 主演のアンソニー・ホプキンスは絶好調と言っても良く、いつものケレン味を廃して悠然と構えており、観る者誰しも大好きになってしまうこのやんちゃなジジイを余裕たっぷりに演じている。周りのキャラクターも粒ぞろい。最初は無手勝流なマンローに気圧されるが、いつの間にか友人になってしまう、またそれを納得させるだけの善良さを的確に表現できる演技を十二分に発揮できるように仕向ける演出には脱帽だ。

 たぶん作者自身、マンローに通じる個性の持ち主か、あるいはマンローのように成りたいと心から願っているのだろう。そんな前向きな姿勢が良い具合に結実したと言える。

 60年代の時代考証も万全で、ヨソの国の話なのに、どこか懐かしく甘酸っぱい気分にさせられる。競技会のシーンは活劇が得意なドナルドソンの面目躍如だが、マンローの記録が今も破られていないという事実がラストに示されると、思わず快哉を叫びたくなった。とにかく、誰にでも奨められる爽快かつハートウォーミングな一編で、観賞後の気分は格別である。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする