元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「幸福(しあわせ)のスイッチ」

2007-02-05 06:43:34 | 映画の感想(さ行)

 上野樹里はブスッとした役を演じると、本当にブスに見える(激爆)。

 家業の電気屋で父親の手伝いをすることが嫌で和歌山県の田舎町から東京に出て行ったヒロインだが、デザイン会社でのイラストレーターの仕事に“アーティスト気取り”で臨んだため上司と衝突。一方的に会社を辞めてしまう。そんな時に和歌山の実家から“姉が入院。絶対安静”との手紙が届くが、これが実際に入院したのは父親で、妹によるウソの手紙に一杯食わされて実家に引き戻された彼女は、父親不在の電気屋を切り盛りするハメになる・・・・という

 自分勝手で子供じみたメンタリティしかない主人公が、家族や地元の人たちと触れ合う中で徐々に成長してゆくという筋書きで、青春映画のひとつのパターンとして普遍的なストーリーながら、漫然と映画化してしまうと臭くて陳腐で観ていられないシロモノに堕してしまうネタだ。でも本作がデビューとなる若手女流の安田真奈監督は健闘した。特筆できるような演出面での工夫はないが、実に正攻法に、かつ慎重に撮っていることがわかる。

 主演の上野をはじめ姉役の本上まなみ、父親に扮する沢田研二と、放っておいても持ち前の個性で場を保たせてしまうキャストを得たため、ヘタな小細工は不要と判断したのだろう。賢明だと思う。さらに舞台となる和歌山県田辺市の風情が効果的で、山あり海ありの風光明媚さに加え、開放的な土地柄がヒロインを“応援”しているような感じさえする。

 序盤はブス演技に徹した上野だが、主人公が心を入れ替えてくる中盤以降は徐々にいつもの可愛さを発揮してくるあたりはさすが若手芸達者。極度の自然体(?)の本上も良い味を出している。妹役の中村静香は屈託のない伸びやかな個性で、今後は有能なパイプレーヤーになる素質がある逸材だ。

 さらに父親役の沢田は“一見くたびれているオヤジだが、どこか華がある”という微妙な役柄を上手く体現化。若い頃は超売れっ子だったジュリーの存在感を活かしているのは言うまでもなく、劇中の“浮気疑惑”が発覚するエピソードもまるで違和感がない(笑)。無理のない展開と適度な感動ポイントが散りばめられた佳作だ。小規模の公開だが、見逃すと損をする。

 それにしても、父親の“商売は売ってオシマイやない。売った後のフォローがもっと大切なんや!”とのセリフは至言だ。アフターサービスがまるでなっていない大手家電店の対応に閉口させられたことのある身にとっては、実に気持ちよく響いた。
コメント
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