元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「魂萌え!」

2007-02-15 06:45:49 | 映画の感想(た行)

 桐野夏生の同名小説を阪本順治監督が映画化(脚本も担当)。観る人が観ればすぐに分かると思うが、これは阪本が2000年に製作した「顔」の別ヴァージョンだ。

 あの映画の、藤山直美扮する主人公は、冴えない日常から逸脱することによって生きる喜びを見出してゆくが、本作のヒロイン(風吹ジュン)も、平凡な専業主婦からのドロップアウトにより初めて自分自身を見つめ直す。しかも「顔」では故人である妹の幻影が主人公に付きまとうように、この映画でも死んだ夫の生前の所業が大きくヒロインにのしかかる。

 ただし、ロードムービーの形を取ってフットワークの軽さを強調した「顔」に対し、「魂萌え!」は家庭が崩壊した後の顛末を地に足が付いたような濃密な展開で描く。それだけ本作の方が重量感があろう。

 何よりも感心したのが、作者が主人公の行動規範を“女なんだから、これでいいんじゃねえの?”といったフィーリングみたいなものに丸投げしていないことだ。男である監督にとって、本当のところ男では分からないはずの女の内面を、男なりに理詰めに追おうとしている。つまりは題材に対して謙虚なのだ。これは一般の観客にとってありがたい。一喜一憂するヒロインの心情が無理なく観ている側に伝わってくる。頭の中で考えただけの、奇をてらった女のフィーリングとやらに擦り寄って醜態を見せた「ストロベリー・ショートケイクス」なんぞとは天と地ほどの違いがある。

 キャスティングも絶妙で、主役の風吹を取り巻く女性陣がヘンな髪型で圧倒する三田佳子をはじめ、藤田弓子や由紀さおり、今陽子に常盤貴子、さらに加藤治子まで登場してアクの強さを見せつけるに及んでは、これはまるで怪獣映画である(爆)。対して田中哲司や林隆三、寺尾聰、豊川悦司といった面々が扮する男どもは、一見影が薄そうでその実しっかりズルさも併せ持つキャラクターばかりで、こちらも壮観だ。

 欺瞞に満ちた過去と決別して前を向いて歩くヒロインに心からのエールを送りたくなる、共感度抜群の快作だと思う。阪本監督も「亡国のイージス」や「KT」みたいな肩に力の入ったシャシンより、こういう系統の作品の方が性に合っていると思う。
コメント (2)
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