元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「あるいは裏切りという名の犬」

2007-02-13 06:41:16 | 映画の感想(あ行)

 (原題:36 QUAI DES ORFEVRES)パリのオルフェーブル河岸36番地にあるパリ警視庁に所属する2人の警視の確執を描くオリヴィエ・マルシャル監督作。

 確かに雰囲気は良いのである。往年の“フレンチノワール”を思わせる暗鬱でやるせない展開。重く沈んだ画面。眉間にシワの寄った登場人物たちが苦渋に満ちた心情を吐露しつつ、過剰なダンディズムにおぼれていく様子は、ハリウッド製の浮ついたお手軽活劇を見慣れた観客にとっては新鮮だろう。主役のダニエル・オートゥイユとジェラール・ドパルデューがまた“男汁100%”のビターな演技を披露して好調だ。

 しかし“人望に厚く正義感溢れる者VS権力に強い執着心を持つ者”といった謳い文句は、かなり怪しい。どう考えても、合理的に行動しているのはドパルデュー扮する“出世欲の強い方”である。多少は無茶なこともやって周囲の顰蹙を買うのだが、一筋縄ではいかないアチラの警察当局の中にあっては珍しくもないのかもしれない(爆)。結果良ければすべて良しだ。

 対してオートゥイユが演じる“人望に厚い熱血漢”は、すべての行動がこれ違法行為。冒頭の警察署の看板を引っぺがす蛮行に始まり、歓楽街で平気で銃をぶっ放し、ドパルデュー警視への対抗意識から情報屋を使ってのケチな小細工に没頭、果ては犯行現場を前にいけしゃあしゃあと犯人に肩入れする無軌道ぶり。

 もちろんこの無頼刑事をドラマの中心にしてはいけないという規則はないが、それならそうでピカレスク・ロマンとしての作者のスタンスが確固なものであるべきだ。これでは何やら“盗っ人猛々しい野郎”を何の問題意識も持たずに擁護しているようではないか。終盤の展開に至っては、何かの冗談ではないかと思うほどだ。

 女優陣もパッとせず、主役二人のそれぞれの妻を演じる女優はまったく魅力がない。さらに最後に登場するオートゥイユ刑事の娘の“成長した姿”なんて、いつからフランス映画界はルックスに甚だしい難点のある女優をスクリーンの前面に出すようになったのかと思い、かなりの不快感を覚えた(笑)。
コメント (2)
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