元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「オペレッタ狸御殿」

2005-12-14 20:04:44 | 映画の感想(あ行)
 製作側は“デートムービーだ”と言っているそうだが。それは明らかに間違い。絶対他人には薦められないシャシンである。この映画に途中退場せず最後まで付き合えるのは“鈴木清順作品の特徴”を熟知した手練れの映画ファンか、あるいは熱狂的なオダギリジョーのファンだけである。いずれも社会的には“超少数派”だ(笑)。何も知らないナイーヴな“ただの映画好き”が観たら、チャチなセットと支離滅裂な筋書き、そして必要以上に大仰なキャストの演技に完璧“引いて”しまうだろう。

 ただしそれらを“清順映画の約束事”だと認めてしまえばこっちのものだ。前作「ピストルオペラ」ほどの切れ味はないものの、めくるめく魅惑の“清順ワールド”にどっぷり浸れる2時間弱である。

 とにかくキャラクターが濃い。特に由紀さおりが演じる“びるぜん婆々”が強烈。彼女が薬師丸ひろ子扮する“お萩の局”と大々的なバトル(?)を繰り広げた後『びるぜん婆々のマイウェイ』という奇っ怪な曲を歌い上げるまでのシークエンスは、この映画のハイライトと言える。

 ヒロイン役のチャン・ツィイーの舌足らずの日本語は可愛いし、平幹二朗、山本太郎、市川実和子、パパイヤ鈴木ら脇役も実に楽しそうにスクリーン上を飛び回る。大島ミチルと白井良明による音楽がめっぽう良く、東京スカパラダイスオーケストラの演奏も快調で、主役二人によるデュエット曲「恋する炭酸水」は今年の邦画界を代表する名曲だ。

 そして美空ひばりの“デジタル出演”にはびっくり。過去の映像の合成ではなく、最初からCGで作り上げるという無謀な試み。短いシーンに限定することにより抜群の効果を上げている。今後は版権や肖像権さえクリアできれば、往年の名俳優がデジタルで次々と蘇るのかもしれない(笑)。
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消費税率アップには賛成できない

2005-12-14 20:01:44 | 時事ネタ
 12月11日付の毎日新聞紙上で、論説委員の玉置和宏が消費税問題に関して“安普請の「消費税衰亡史」”と題し、持論を展開していた。彼は俗に言う財政再建論者であるらしく、消費税率アップに賛意を表明しているように見える。まあ、何を主張しようと自由だが、ではその論拠はどうなのかというと、これがいささか心許ない。

(引用開始)
 97年4月から5%に税率アップした年の秋以降に金融機関の倒産が相次いだ。これは消費税のせいだと、エコノミストたちが言い立てるものだから、すっかり経済の悪役スターとなった。
 そんなに消費税が景気に悪影響を与えるなら、いま景気が日本より不調なドイツがどうして16%から19%にまで上げようとしているのか聞いてみたらいい。高齢者医療、年金、介護など社会保障の見直しを進めるためと、至極当たり前の答えが返ってくるはずだ。
(引用終了)

 橋本政権時の消費税アップが景気の急降下と国家財政の悪化を招いたことは周知の事実だと思っていたが、ここにそれを認めない識者が存在していることに驚いた。もちろん、それなりに言い分に筋が通っていれば文句はないのだが、彼の意見はすなわち“ドイツではこうだった。だから日本でもこうだ”という上辺だけの単純比較だ。

 このネタを外国と比較するのなら、たとえばドイツ政府の財政構造と税収の推移、および国民の消費性向や貯蓄性向など、数々のファクターについて考察を加えねばなるまい。それをスッポかして社会保障費の見直しという御題目だけを取り上げて税制の在り方を断定してしまう態度はスマートではない。だいたい、たとえば消費税率を3%アップさせるとして、日本のように5%から8%上がるのと、ドイツのように16%が19%に上がるのとでは、上昇率に雲泥の差がある。それを度外視してアップする税率だけをあれこれ言っても仕方がない。

 単純に家計ベースで考えて、消費税がアップして消費が増えることは考えられない。中には“消費税上がったから財政破綻も回避され、将来の不安もなくなった。だから安心してどんどん消費しよう”と思う奇特な人もいるのかもしれないが(笑)、たいていの場合消費税率が上がれば実質的な消費は減る。家計が緊縮になればマクロでの需要も減り、景気も冷え込む。そうなれば税収もダウンしてしまう。これを解決するには国民の所得を消費税率上昇を軽くカバーするぐらいに増加させるしかないが、御存知の通りどこの職場でも給与(≠一時金)は抑えられっぱなしだ。

(引用開始)
 同じ敗戦国で何かと比較されるドイツの公債依存度は10%前後、日本は40%近い。財政赤字(対GDP比)はドイツが3%強、日本は6%強だ。要するに財政規律は2~3倍ドイツが日本より健全国で、これでは話は逆である。
(引用終了)

 この論説委員は“こういう数字があるから日本はドイツより不健全だ”と言いたいらしいが、ドイツの公債依存度10%を“健全”と位置づけ、40%の日本を“不健全”と断ずる基準は存在しない。国の借金が悪いことだと思うのなら、10%だろうが40%だろうが“不健全”に決まっているではないか(爆)。

 実を言えば多くの資本主義国における国家財政は赤字だ。もちろんその“見かけ上の額”は日本が突出して多いが、だからといって財政破綻で国債のデフォルトが起こったという話も、IMFの監視下に置かれるという話もない。考えてみれば当たり前で、日本はヨソの国から借金しているわけではないのである。対外債務で首が回らなくなったアルゼンチンやトルコとは状況が全く違う。さらに、日本には膨大な政府所有資産がある。

 もちろん、財政赤字は無闇に増えて良いというものではない。しかし、だからといって目先の帳尻を合わせるための安易な増税は、結果的に景気の冷え込みによる税収悪化を招くだけだ。税率を上げたいのなら、完全に景気が回復パターンに乗り、GDPが順調にシフトするようになってからにしてもらいたい。あるいは史上空前の利益を上げた輸出関連の大企業からガッポリと税金を取ったらどうだ。

 で、この論説委員に限らず、どうしてこういう財政再建至上論がマスコミにはびこっているのか。それは、大手マスコミこそが既得権益に守られた高給取りの集まりだからだと思う。彼らにとっては消費税率が少しばかり上がろうが屁でもない。マスコミの消費税率アップ待望論を読んですぐに“そうだ、その通りだっ!”と賛同してしまう人は、貧乏になりたがっているとしか思えないね(暗然)。
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