元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「トニー滝谷」

2005-12-09 19:16:17 | 映画の感想(た行)
 劇中のナレーションで語られる“愛すべき誰かによって、自分がかつて孤独であったことに気づかされてしまうと、その状態から元に戻るのがとても怖くなる”ということが本作のテーマだと思うが、延々と語られる主人公のプロフィールがそれとどうリンクするのか全く釈然としない。

 主人公がトニーと名付けられたこと、父親の半生が波瀾万丈だったこと、彼が団塊世代であること、結婚した妻が“衣装依存症”だったことetc.どう考えても、そんなモチーフは主題と直結しない。いずれも思わせぶりなネタでしかなく、ただの“記号”に過ぎないと言える。村上春樹による原作は(私は未読だが)そんな素材が違和感なくまとめられているのかもしれないが、映像化に際してはもっとシナリオを精査すべきであったろう。

 イッセー尾形は確かに熱演。しかし、どう転んでもここでの彼は“イッセー尾形本人”でしかなく、映画の登場人物には成り得ていない。ミスキャストだと思う。

 市川準監督はさすがCF出身だけあって映像はスタイリッシュ。彩度を落とした画調も印象的。だが、これもテーマをバックアップするほどでもなく、単なるネタに終わっている。いわばこの映画は、演出家の映像的ケレンと主演男優の個人芸が別個に“ただ存在している”というだけのシロモノだ。

 救いは上映時間が1時間15分と短いことと坂本龍一の音楽。それにヒロイン役の宮沢りえである。キャラクター自体にはほとんど血が通っていないが、外見上は実に魅力的だ。ワン・シークエンスごとに着替える衣装がどれも素晴らしく似合う。彼女を見るだけで入場料のモトは取れるかもしれない(笑)。
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「アビエイター」

2005-12-09 07:02:08 | 映画の感想(あ行)
 総花的で焦点が絞り切れていない映画である。確かに作りは贅沢だ。映像は当時の色彩をデジタル技術で再現、存在しない飛行機のエンジン音も綿密に考証し、映画「地獄の天使」の撮影場面はSFXが上手く機能している。さらに衣装代だけで2億円を費やしたセレブたちが集うパーティーのシーンなど、ゴージャスな場面には事欠かない文字通りの超大作だ。

 しかし、観終わって感じるのは伝記映画の難しさだけである。まずは事実をしっかりと精査し、その中から確固たるテーマを設定して、それが主人公とどうリンクさせていくかを詰めてゆくべきだろう。しかし、この映画は歴史的人物の業績を並べているだけ。それでは面白くも何ともない。

 ハワード・ヒューズは史劇の主人公みたいに史実を追うだけでドラマになる素材ではないはずだ。彼はなぜ稼業の石油会社を放り出して映画業界と航空業界に執着したのか。どうして幾多の女優と浮き名を流したのか。後年に強迫神経症になった背景は何か。それらと冒頭に映し出される“子供の頃の若き母との思い出”とはどう関係するのか。それらを描かずに平坦な画面展開だけに終始しているために、中盤あたりから観るのが苦痛になってくる。これで3時間はあまりにも長い。


 レオナルド・ディカプリオは熱演だが、映画自体の求心力不足が彼のパフォーマンスを帳消しにしている。脇のキャストも頑張っているわりには印象が薄い。

 唯一感心したのがキャサリン・ヘップバーン役のケイト・ブランシェットで、海千山千の大女優を上手く表現していた(オスカー受賞も納得だ)。

 マーティン・スコセッシの演出は前作「ギャング・オブ・ニューヨーク」よりマシだが、全盛期と比べて見劣りする。彼は「タクシー・ドライバー」か「レイジング・ブル」、あるいは遅くとも「グッドフェローズ」あたりでアカデミー監督賞を手にしておくべきだった。
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