気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

最後の夏 関谷啓子 本阿弥書店

2020-08-22 12:39:20 | つれづれ
やわらかきガーゼの肌着洗いおりみずからの手を洗うごとくに

枇杷いろの灯りともしてバスが来る どこか遠くへ行きそうなバス

お人形みんな寝かせてみずからも眠くなりたる幼子を見つ

たそがれの沼のようなる桜木に呑みこまれたり一羽の鳥は

「里の秋」唄えばいつも涙出るわれの身体のいずこに浸みし

父が書きしバスの時刻が黒板にのこされしまま数年が過ぐ

良い歌をすこしだけ作って暮らしたい今日は桜のふぶき見あげて

忘られているときもっとも自由なり夏蠟梅の花もおわりて

鈴の音を鳴らしてトイレにゆく母を思えり廊下のながさ思えり

移動図書館「そよかぜ号」が目の前にしばし止まれり信号の間を

(関谷啓子 最後の夏 本阿弥書店)

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短歌人の先輩であり友人の第六歌集。歌にも作者にも清潔感がある。ご両親を見送り、実家を処分する一方、孫の世話にたびたび呼ばれる。そんな暮らしを歌が支えている。