気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

時をとぶ町 小谷博泰 飯塚書店

2020-08-27 00:04:26 | つれづれ
平和というおとぎ話がもう十年続いてくれろと線香をつぐ

あのままであの家に暮らす僕がいてやあこんにちはと僕に手を振る

わしは君だ七十年たったら来なさいと小さな僕に手をふっていた

死は遠くかがやくものか街のはて海のむこうに島かすみいて

くるまから液体酸素のボンベ降ろす男がひとり晩秋の街

大阪ならきっとわろうてもらえるか東京なら皆席立って去る

食パンの残りをちぎって撒いてやる我のひもじいたましいたちに

ゆっくりと日は傾いて見上げればこずえにあの世の鳥なきさわぐ

あの部屋ではアンドロイドがお掃除用ロボット使って掃除している

老人がベンチにすわって本を読む近くて遠いひとつの景色

(小谷博泰 時をとぶ町 飯塚書店)

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『河口域の精霊たち』に続く第十四歌集。作者のわきにはいつももう一人の作者がいて、
おしゃべりをしながら生きているようだ。むつかしいことは何もなく、するすると読める一冊。