その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

月村 太郎 『民族紛争』  (岩波新書)

2014-10-09 22:19:58 | 


 昨今のパレスチナ、イスラム国、ウクライナ、サラエボ・・・、紛争ではないがスコットランドと、頻発発生している民族を巡ってのコンフリクトの理解の助けになるかと思い手に取った。世界で続発する民族紛争について、6つのケーススタディと民族紛争を理解するためのフレームワーク(理論)の2部構成となっている。

 必ずしも当初の目的を直接的に果たしてくれるものでは無かったが、知らなかったことが多く勉強になった。ケーススタディでは、スリランカ、クロアチアとボスニア、ルワンダ、ナゴルノ・カラバフ、キプロス、コソヴォの6つのケースが紹介される。スリランカ、クロアチアとボスニア、ルワンダのケースはこれまで書籍や映画を通じてある程度知識があったが、その以外は新聞でちら見した程度で、殆ど中身を知らなかったことに気付いたのは発見だった。

 理論編は、紛争発生要因、予防のための施策、紛争の発展プロセス、紛争の終了の4つの章立て説明される。私としては、特に、紛争要因として、必要条件としての構造的要因(居住分布)、政治的要因(民主化)、経済的要因(貧困)、社会・文化的要因(歴史、宗教)と十分条件としての当事者が感じる恐怖、民衆の行動、リーダーシップの3点で説明されたことは、今後、民族紛争を見ていく枠組みとして有益だった。

 新書版であるため、扱うテーマの重さ、大きさから考えると、より詳しい解説が欲しくなるのは致し方ないだろう。いわゆる入門書として、適切な一冊である。

《目次》
序章 民族紛争とは何か

1部 世界各地の民族紛争―六つの事例
スリランカ―言語政策と民族紛争
クロアチアとボスニア―民族紛争予防の失敗
ルワンダ―ジェノサイドの実際
ナゴルノ・カラバフ―体制変動と民族紛争
キプロス―本国の介入
コソヴォ―国際社会の介入

2部 民族紛争を理解する為に
なぜ発生するのか
予防はできないのか
どのように成長するのか
紛争の終了から多民族社会の再建へ


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