その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

フライングシアター自由劇場第二回公演「あの夏至の晩 生き残りのホモサピエンスは終わらない夢を見た」@新宿村LIVE

2024-06-14 08:05:09 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

串田和美さんのシェイクスピア劇は、2019年に「テンペスト」を拝見して以来。

「夏の夜の夢」(以下、「夏夜夢」)を解体・再構成した作品とのことで、意味ありげな長いタイトルと相まって、どんな芝居が展開されるのかとっても楽しみだった。

ベースの筋立てや登場人物は原作と変わらないながら、全体としてはアレンジ度も強い。なので、「夏夜夢」としても楽しめるし、原作とは別物の芝居としても楽しめる、一粒で二度おいしい舞台ともいえる。

一番大きなアレンジは、劇の冒頭と最後に出てくる串田和美演じる旅人(パック?)がソフトボール大の球体を弄りながら、過去の森の中での球体との遭遇が語られる。球体のメタファーは何なのか?終始、観るものに考えさせる。これと言った答えを見つけるのは難しいが、過去から現在までの時間軸をつなげたり、夢の世界と現実の世界を結ぶものとしての、球体なのかと思ったりした(映画「2001年宇宙の旅」の冒頭に登場する黒い石板やハムレットが持つ球体を思い出した)。

これ以外にも、後半、壁が崩れるところもあるが、否が応でも、ベルリンの壁、現在のガザ地区とイスラエルとの壁を思い起こさせる。

8名で「夏夜夢」を演じてしまった役者さんたちのパワーあふれる体当たり演技が強烈だった。串田和美さんと前回ノゾエ版「マクベス」でマクベス夫人を演じた川上友里さん以外はお初の方々だったが、皆さん、セリフ回し、動きともにしっかりしていて安定した舞台であった。一人二役は珍しくないだろうが、一人三役も四役もこなしていて、運動量だけでも相当だと思う。

串田さんの演出のやり方なのかどうかわからないが、台本にないアドリブシーンと思わせるところもいくつかあった気がしたのだがどうだったのだろうか。場面により、一瞬、役者さんが怯むように感じられた一方で、それが舞台の緊張感を高めた印象があって、観劇していてライブ感が満載で楽しい。

舞台装置はシンプルで、舞台中央奥に4つの扉が置かれ、その扉での出入りで場を表す。ナチュラルで無理がない。一方で、全般に中心的な場となる「森」は、役者さんの動きによって表せられるのだが、「夏夜夢」が初めての人にはちょっとイメージつきにくいかも。背景や衣装も白を基調にしながらも、劇中劇の舞台だけは原色系の非常に派手な色合いで舞台映えした。

この舞台、この後、ルーマニアの演劇祭で披露されるという。国際的にどう評価されるのか、興味深い。上演時間は2時間弱。あっという間の舞台であった。

(余談いくつか)
・観客層:シェイクスピア劇は女性観客多いが、今回は特に多かった気がした。8割がたは女性で占められていたように見えた。通常の観劇聴衆と雰囲気が若干異なる叔母様がたがいらした気がしたのは、元宝塚の大空さん目当てなのだろうか(憶測です)。

・新宿村LIVE:初めて訪れたが特異なシアターである。丸ノ内線の西新宿から7分ほど歩いて、小さなビルの地下4階(もしかしたら3階?)にある。階段でひたすら降りたところに小劇場がある。こりゃ、歳取るとつらいなあとか、火事になったらアウトだなと思ったりしたが、まさにアングラ劇場だ。

・アフタートーク:初めてアフタートークなるものに参加。稽古で大変だったところ、苦労したところなどが、役者さんから直接語られて楽しめた。球体の意味するところも各役者さんによって理解が違っており、別に共通の認識をもってやって演じているわけではないということも知る。串田さんの演出も相当自由度が高いようで、舞台を思振り返って思い当たるところもあった。

公演       フライングシアター自由劇場第二回公演
「あの夏至の晩 生き残りのホモサピエンスは終わらない夢を見た」
原作       ウィリアム・シェイクスピア 「夏の夜の夢」
翻訳       松岡和子
脚色・演出・美術             串田和美
出演       大空ゆうひ 川上友里 皆本麻帆 小日向星一
串田十二夜 谷山知宏 島地保武 串田和美

日程       2024年6月6日(木)-6月12日(水)
会場       新宿村 LIVE

スタッフ
照明:齋藤茂男
音響:市來邦比古
映像:栗山聡之
衣装:原田夏おる
演出助手:荒井遼
舞台監督:福澤諭志
制作:梶原千晶 長谷川きなり ・ 串田明緖
宣伝絵画:平松麻
宣伝写真:串田明緖
宣伝デザイン:GRiD CO.,LTD.  
企画・製作:フライングシアター自由劇場
主催:(有)自由劇場


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