夏休みの読書として、今年4月に書き下ろしとして発刊された村上春樹の最新作を読んだ。久しぶりの村上小説。
大学生のころ、「羊」3部作の後に読んだ『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』には、その謎めいた世界観に強く魅かれた。その『世界の終わりと・・・』と「並列し、できれば補完しあうものとして」書かれた(あとがき)という本書の読書体験は、私にとっては若き頃の自分を訪ね、そこから現在を照射するようなプロセスだった。
対語や謎のメタファーがたくさん出てくる。「実際の世界」と「壁に囲まれた街」、「本体」と「影」、「影を失うこと」、「夢」、「単角獣」、「身体」と「意識」、「少年との一体化」・・・。それらの意味合いをぼんやりと考えながら、世界に浸るのが心地よい。夏休みのようなまとまった時間でないと、なかなか没入しにくい。
正直、私の読解力と筆力で、本書についての感想をまとめるのは、難しいし相当の時間がかかりそうだ。また、村上小説の楽しさは、感想をまとめるというアウトプット行為よりも、読み進めるインプットの過程そのものにあるとも思う。なので、言い訳めいているが、感想は気が向いたら書いてみたい。
第2部のクライマックスで、主人公は川を上流に向けて流れに逆らって歩いていく。上流に行けば行くほど肉体的に若返り、40代半ばの私から10代の私に戻っていく。作者自身の創作活動がそうだったのではと想像した一方で、私にとっても、本書の読書体験は、川を遡って感覚的に若返っていく経験だった。